ビーチサッカーW杯優勝ならず…日本は決勝で「避けなければならない」ことをやってしまった
モスクワで開催された「FIFAビーチサッカー ワールドカップ ロシア2021」に参戦した日本代表は、日本時間8月30日(午前1時30分キックオフ)に行われた決勝で優勝候補のロシアと対戦。健闘むなしく2-5で敗れ、悲願のW杯初制覇はならなかった。
2011、13年と大会連覇を達成した強豪ロシアは<因縁の相手>だった。
2年前のパラグアイ大会の3位決定戦で逆転負けを食らってメダルを逃し、リベンジのチャンスだった今大会グループリーグ3戦目では、1-7の屈辱的なスコアで返り討ちにあってしまった。
そして迎えた決勝戦。ここでW杯初のファイナリストとなった日本代表が、その余勢を駆ってホスト国ロシアを撃破して世界王者の称号を手にすれば、これほど痛快なこともなかった。
しかしーー。日本代表は、タイトルの掛かった大一番で「先制点を許さない」「ゴールを決めた直後に失点しない」というセオリーを守ることができなかった。
1ピリオド(P)4分だった。スローインから高い打点のダイレクトオーバーヘッドシュートを叩き込まれ、先制を許してしまった。
早く同点に追い付きたい日本選手の立ち居振る舞いから、焦燥感のようなものが伝わってくる。
焦れば焦るほどシュートの精度は下がり、ボールはゴールの枠を大きく外れて飛んでいくばかり。
2Pが始まってすぐに同点に追い付いた。キックオフのボールをFP赤熊卓弥が、右足ですくい上げるようにして右隣の茂怜羅オズ・監督兼選手の前に浮かせた。
オズが右足インサイドで浮き球をリターン。赤熊が相手ゴールに背を向けてジャンプ一番、クルリと回転しながらオーバヘッドシュート。「イチ」「ニー」ときて「サン=3秒」でゴール右下に同点弾が決まった。
ここで日本代表に必要なのは、一気呵成に攻め立てて逆転ゴールを狙うことではない。
同点としたことで試合を落ち着かせ、ロシアのペースだった1Pを記憶の片隅に追いやり、少しづつ日本ペースに持っていくことである。
そのためにも「不用意なファウルを避けて失点に繋がりかねないFKを与えない」ことが絶対条件となる。
しかし、再開直後のFP山内悠誠のプレーがファウルと判定され、FKをロシアに決められてしまう。日本が1-1の同点でいられた時間は「5秒」に過ぎなかった。
さらに2P4分に追加点を奪われて1-3。
その1分半後、相手ゴール近くでファウルを受けた赤熊がPK奪取。今大会10点目をPKで決めて1点差に詰め寄るも、2P8分にロシアに4点目を決められてしまう。
結局、一度もリードを奪えなかった日本は、余裕を持って試合を優位に進める戦い方ができないまま、試合のトータル時間「36分」を浪費してしまい、優勝のチャンスを逃してしまった格好だ。
「ビーチサッカーは競技の特性上、頻繁にシュートチャンスが訪れるので、シュートの本数と精度とアイデアを競い合うという側面がある。多くのシュートを打つにはどうすればいいのか? そのシュートをどうやって枠内に放り込むか? セットプレーの種類をどう増やしていくか? そういった部分においてロシアの方が日本を上回っていました。気になったのが、日本はFPもGKもシュートがゴールの上を通過していくことが珍しくなかったこと。あとゴロのシュートが少ないことも気になった。ビーチサッカーというのは、ピッチの砂の形状からイレギュラーバウンドが発生しやすく、ゴロのシュートが驚くような跳ね方をしてゴールネットを揺らすことも少なくない。これから日本は、より一層シュートのレベルアップに励んでもらいたい」(元サッカーダイジェスト編集長・六川亨氏)
ちなみに決勝戦のスタッツを見てみると、ボール・ポゼッション(ボール支配率)はロシアが「54%」と上回ったが、ほぼイーブンと言ってもいいだろう。
シュート数はロシアの「46本」に対して日本は「42本」とそん色はないが「ショッツ・オン・ゴール」で大差を付けられた。これは「シュートがゴールの枠内」に飛んだ数のコトだが、ロシアはシュートの半数近い「21本」。一方の日本は「13本」にとどまった。
シュート1本(枠内1本)でも、相手がシュートをことごとく外してくれた場合、1-0で勝利が転がり込んでくることは、サッカーの世界では珍しいことではない。
しかし、シュートがバンバン飛び交うビーチサッカーだからこそ、1-0で逃げ切ることが難しいビーチサッカーだからこそ、シュートの練度を高め、国際競争力を今以上に上げてもらいたい。
個々の選手のテクニック、好守の連動性、試合中の戦術変更などへの対応力、俊敏性、最後まで諦めないタフな精神力……日本が世界に誇れる部分はゴマンとある。
近い将来、W杯決勝後の表彰式で金メダルを首を掛けるシーンを見てみたいものである。
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▽田嶋幸三・日本サッカー協会会長のコメント
「ワールドカップの決勝という場に進出してくれた選手やスタッフに感謝します。SAMURAI BLUEやなでしこジャパン、アンダーカテゴリー代表、フットサルやブラインドサッカー、そしてその他の障がい者連盟の代表チームなど、全てのカテゴリーの代表チームが世界で活躍しているということは、日本サッカーの総合力の高さを表していると思います。ビーチサッカー日本代表は、これまでにもワールドカップのベスト4に2回進出しており、今回、初めて決勝に進出したということは、優勝を狙える実力が伴ってきていることだと思います。これからも繰り返して決勝に進出していくことが大事であり、それが優勝を掴み取ることにつながっていくと思います。ビーチサッカーの発展に対して日本サッカー協会として全面的に支援していきたいと思います」