鈴木誠也に「トレード拒否権」も容赦なし カブス敏腕オーナーは“選手売り抜け”の達人

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 現時点では最大の後ろ盾とみてよさそうだ。

 1876年創立の老舗球団のトーマス・リケッツ・オーナー(55)は鈴木獲得で劣勢が伝えられると自ら出馬し、アリゾナ州での交渉に参加。通常はGMが行う契約交渉にオーナーが直々に乗り出したことからも、鈴木への期待の高さがうかがえる。

■証券会社でならした売り抜け

 同氏は商品取引が盛んなシカゴで投資銀行、企業再生などで財を成し、2009年に約9億ドル(約1040億円)でカブスを買収。球団はトーマス・リケッツ氏を筆頭に4きょうだいによる共同経営で、米経済誌フォーブスによれば、リケッツ一族の総資産は47億ドル(約5410億円)にのぼる。

 スポーツビジネスにも熱心で、ロシア人オーナーが手放した英サッカープレミアリーグの名門チェルシーの買収にも名乗りを上げている。

 アマ競技の大会を支援するなど、スポーツに理解を示しているが、投資家として数々のM&Aを手がけてきただけに、球団の企業価値向上には手段を選ばない。

 球団買収後は、さまざまな改革に着手した。04年にレッドソックスが86年ぶりの世界一を成し遂げた際のセオ・エプスタインGMを副社長として招聘。15年にはア・リーグのお荷物球団だったレイズをワールドシリーズ進出に導いた(08年)ジョー・マドン監督(現エンゼルス)を招いた。翌16年にはこの2人のコンビで108年ぶりの世界一を達成した。

 リケッツ氏はハード面のテコ入れにも動いた。メジャーではフェンウェイパーク(ボストン)に次いで歴史のある本拠地リグレーフィールドの老朽化を理由に、建て替えや同じシカゴ市内への本拠地移転を企てた。球場建設費用の一部、約240億円の負担をシカゴ市に求めたが、伝統ある球場の建て替えや血税を投入することに市民から猛反対されて中止に追い込まれた。

 球場建設計画が頓挫すると、今度はリグレーフィールドの改修、周辺の再開発に着手。14年からの5カ年計画で1000億円以上を費やして、高級ホテルや自社ビルを建設した。新たにチームの公式グッズ売り場が入った大規模な商業施設も設けて収益力が向上。20年には米内務省から、球場ではフェンウェイパークに次いで2例目となる歴史的建造物に指定されたこともあり、球団の価値は高騰した。フォーブスの試算によれば、球団の試算価値はリケッツ氏が買収した09年当時の約921億円から20年には約3820億円に達した。

ピークに達する前にトレード

 鈴木獲得に自ら乗り出したように、ソフト面であるチーム編成にも積極的に関わっている。チーム再建を図るため、昨季途中に16年のMVPブライアントら主力9人を一気に放出した「ファイアセール」は、リケッツ氏の方針だという。

「リケッツ一族は典型的なスポーツ資本家と言っていいでしょう」とメジャーに詳しいスポーツライターの友成那智氏がこう続ける。

「18年に6年総額145億円で契約したダルを20年オフに放出するなど、リケッツ氏は選手の売り時を心得ています。この年のダルはリーグトップの8勝をマークするなど、サイ・ヤング賞の最終候補3人に選ばれましたが、球団にとって23年までの残りの年俸約70億円が負担になっていました。リケッツ氏は今が売り時と判断したのでしょう。昨季途中のファイアセールで放出された選手にしても、実力がピークに達する前に他球団にトレードを持ちかけて、人件費削減を図ると同時に若手有望株の獲得に成功している。生き馬の目を抜く証券業界で成果を出してきただけに自身が損を被らないように売り抜けにたけています」

 鈴木の年俸は1年目の今季は約8億円だが、24年に約23億円に達し、それ以降は20億円で推移する。結果やチームの状況次第では、シビアなオーナーの一存で厳しい立場に追い込まれかねない。

「むしろ結果を残しても、ダルやブライアントのようにトレード要員になる可能性はあります。鈴木の契約にはトレード拒否権があるとはいえ、本人が合意すれば放出は可能です。オーナーは鈴木に満額を支払う以前にトレードできないかとソロバンをはじくかもしれません」(前出の友成氏)

 鈴木はカブスで契約を全うできない可能性もあるというのだ。 

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