著者のコラム一覧
鈴村裕輔野球文化学会会長・名城大准教授

1976年、東京都出身。法政大学博士(学術)。名城大学外国学部准教授。主な専門は政治史、比較思想。野球史研究家として日米の野球の研究にも従事しており、主著に「MLBが付けた日本人選手の値段」(講談社)がある。スポーツを取り巻く様々な出来事を社会、文化、政治などの多角的な視点から分析している。アメリカ野球学会会員。

エリザベス2世の死去で考える 英国で野球が普及しない理由

公開日: 更新日:

 19世紀末には米国から野球団が数回にわたり訪英して試合を行い、プロリーグも結成されたとはいえ現在に至るまで傍流の競技にとどまっているのは周知の通りだ。では、なぜ英国では野球が定着しないのか。「サッカーが盛んだから」「似た競技のクリケットがあるから」といった答えはすぐに思い浮かぶだろう。

■主な担い手が労働者

 しかし、英国における野球の導入と展開の過程を見ると、事情はもう少し複雑なことが分かる。

 例えば、今も階級の違いが強く意識される英国社会にあって、19世紀末に行われた野球の主な担い手が労働者であったことは、社会の基盤をなす中流階級や上流階級への普及を妨げた。

 また、20世紀に入ると米国から英国を訪れる野球選手や指導者たちが「野球は米国生まれの素晴らしい競技」と米国の優位性を強調することが少なからずあり、英国の人々に野球を受け入れることに抵抗感を覚えさせた。

 さらに、英国で競技する選手の大半が米国人であった点も、英国内での競技人口の増加を阻害する結果となった。

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