「朝青龍にあれをやめさせたらおかしくなる」熱海富士にも通じるルーティンの功罪
だが、熱海富士の場合はまさに立つ寸前。幕内の先輩たちに先に手をつかせ、待たせて立った取組が何番もある。
13日目と優勝決定戦では貴景勝に逆手に取られた。足の動きが止まるまで中腰のまま待たれ、先に手をつかされている。
熱海富士の地ならしで館内が盛り上がる気配も出てきた。エスカレートすると、立ち合いの邪魔になる手拍子がやっと影を潜めたのに、ぶり返しかねない。
八角理事長(元横綱北勝海)は「うちの北勝富士に、おまえはルーティンが多すぎて忘れるだろうと言ってるんだよ。私らの時代は仕切ったらすぐ一方の手をついてから反対側の手と、みんな自分の立ち合いに自信を持って一定だったから、互いに合わせられた」と、全体に最後の仕切りが長い現状に苦言を呈したことがある。
熱海富士はのみ込みが早い。スピード出世が証明している。今のうちなら直せるのではないか。大量の塩まきや特異な動きが、観客の楽しみとして許容される力士もいるが、横綱・大関になろうかという力士の役回りではない。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。