「とっぴんぱらりの風太郎」万城目学著
<命を賭すべきものを見つけたとき、人は変わる>
関ケ原の戦いが終わり、世の中が一応平穏を取り戻したころのこと。主人公の風太郎(ぷうたろう)は、伊賀の忍びの元締、采女(うねめ)が取り仕切る柘植(つげ)屋敷で、地獄のような忍者修行に明け暮れていた。
同期生は個性派揃い。若いくせにどじょうひげを生やした嫌みな蝉、南蛮育ちで、のんびりマイペースな黒弓、クールで美貌の常世(とこよ)、これまた美貌で神出鬼没な百(もも)。互いに切磋琢磨していたが、実地訓練で失敗をしでかした風太郎は屋敷を追われ、あてもなく京に上る。だが、戦のない世に忍びのニーズはなく、プータロー状態。ひょんなことから、畑でひょうたんを育てる羽目になる。
著者初の時代小説は、750ページに及ぶ一大巨編。現代のニートな若者を400年前にタイムスリップさせたようなコミカルなノリだが、やがて風太郎と仲間たちは、歴史の大舞台に立たされることになる。
ひさご様と呼ばれる風変わりな貴人、妖しい力を持つ因心居士など、特異なキャラが絡み合い、舞台は大坂城へ。
命を賭すべきものを見つけたとき、人は変わる。がんばれ、風太郎! 手に汗にぎるクライマックスが待っている。
(文藝春秋 1900円)