「ヒトとヒグマ」増田隆一著
「ヒトとヒグマ」増田隆一著
アイヌ文化では、山の神「キムンカムイ」として高い地位にあるヒグマを捕獲して食する際には、カムイ(神)に礼を述べ、ヒグマの再来を願いながら丁重に山々(天上界)に送り返す「クマ送り儀礼」が行われてきた。
このクマ送りの儀礼は、ヒグマが生息する北米やユーラシア大陸の多くの民族に共通するという。冬眠と覚醒を繰り返すヒグマに死と再生の神秘性を感じたからだ。有史以前は単なる狩猟対象だったヒグマだが、その動物としての生態的特徴や自然環境との関わり合いを認識することにより、ヒトの心に精神的存在として地位を得ていったという。
本書は、北半球に広く分布するヒグマの動物学的・生態的特徴から、そうしたヒトとヒグマの精神文化的な関係まで、さまざまな視点から論じたヒグマ学入門書。 (岩波書店 1012円)