著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

青熊書店(大岡山)コンセプトは「土地と人」その根幹に“青”森と“熊”本

公開日: 更新日:

 大岡山駅から大岡山北口商店街を進み、左に右に、ちょいと曲がった脇道沿い。青熊くんが本を読む絵の吊り看板が目印だ。この3月に開店したばかりなのに、濃い茶色の木の外観が、ずいぶんしっくり──。

「46年間続いた喫茶店の跡なんです。実は昔、私もコーヒーを飲みにきたことがある……。そのままの雰囲気を残しました」

 と、店主の岡村フサ子さん。新刊4割、古本6割、合計2000冊を置く約5坪の本屋さんだ。

 最初に、面陳列箇所から目に飛び込んできたのは、「樹木たちの知られざる生活」「レトロな世界に分け入る」「雪豹の大地」。さっそく3冊を順に手に取り、はは~んと思った。内容もさることながら、装丁、キャッチがすこぶるすてきな本ばかりだな、と。

「地元熊本のタウン誌や、(大学は東京だったので)再上京して編集プロダクションに勤め、雑誌などを作る側だったんです」と聞いて、なるほど。

「作る人と読む人を近づける“接続ハブ”。その歯車の小さなネジになりたいと思った」のが、本屋さん開店の動機だそう。

作品を並べると“化学反応”が起きるかも

 神保町のシェア型書店「パサージュ」に棚を持ち、120坪の古書店「@ワンダーJG」で修業。そして、「東京都チャレンジショップ」に応募して選ばれ、専門家のアドバイスを受けつつ自由が丘で店舗運営する1年間を経ての開業だ。

 店名「青熊」は、青森の「青」と熊本の「熊」。

「夫が青森出身。寒くて雪深い地と、能天気かもしれない南の地と。作品を並べると、“化学反応”が起きるかもと思って」と岡村さん。「土地と人」が店全体のコンセプトで、その根幹が、青森と熊本なのだ。

 青森の棚には太宰治、寺山修司、沢田教一、羽仁もと子ら。熊本の棚には夏目漱石、池辺三山、渡辺京二、石牟礼道子らの著作と関連本がずらり。

 岡村さんが「これ、すごいですよ」と「青森の暮らし」を指した。県内の人や名所や産業を掘り起こして50年の季刊誌。青森の民度の高さがぐいぐい伝わる。同時に、熊本の棚から、天草エアラインを扱った「日本一小さな航空会社の大きな奇跡の物語」から視線を感じるのは、岡村さんの言う“化学反応”の予兆だろうか。

◆大田区北千束1-53-11 伊勢谷ビル1階/東急大井町線大岡山駅から徒歩4分/℡050・1808・4149/11時~19時、水曜、第2・4火曜休み

ウチの推し本

「アルテリ 19号」アルテリ編集室刊

「アルテリ」とは、ロシア語で「職人の自主的な共同組織」を意味するという。「熊本に小さな新刊書店『橙書店』があります。思想史家の渡辺京二さんの声かけによって、橙書店店主の田尻久子さんが10年前から作っている文芸誌です。今号の表紙絵は坂口恭平さん。谷川俊太郎さん、石牟礼道子さんの生前の一文のほか、黒田征太郎さん、武田砂鉄さん、吉本由美さんたちが随筆を寄せています」

(1320円)

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