「朝日新聞が財務省の犬になった日」大村大次郎著/夕日書房(選者:佐高信)
消費減税を阻む「国民の敵」が分かる
「朝日新聞が財務省の犬になった日」大村大次郎著
この刺激的な題名の本を私は森永卓郎の「発言禁止」(実業之日本社)で知った。大村は元国税調査官である。私は大蔵省(現財務省)の分割を主張し、匿名大蔵官僚から「サタカの必要経費を認めない」と脅されたことがあるが、財務省の威力は徴税権を持つ国税庁を支配下に置いていることにある。
それを使って「朝日」はねじ伏せられたという。「カラ出張」などの脱税を突かれて「朝日」が重加算税を課せられたと報じられたのが2012年3月30日。その翌日の同紙の社説が「やはり消費税は必要だ」だった。それまで「朝日」は、消費税が金持ち優遇税であることを批判していたはずなのに、簡単に転向して、その後は、推進の強硬派になってしまったのである。
1988年10月6日付の社説では、消費税を実施したら「所得の高い人ほど得をする。所得税の累進度を下げ、消費税を導入するのだから当然である」と明確に批判していた。
そして大村は2019年4月5日付の「ウォールストリート・ジャーナル」を引く。同年10月に時の首相、安倍晋三によって消費税の税率が10%に引き上げられたのだが、同紙は社説で「増税によって景気を悪化させようと決心しているように見える」と皮肉った。大村は「消費税は国民生活を苦しめる」↓「国内消費が減る」↓「企業の国内売り上げが減る」↓「無理な海外進出をして失敗する」と指摘する。
経団連は目先のことしか考えず、消費を先細らせて自らの首を絞めた。大村は「消費税導入前は、大企業の法人税の税率は約40%だった。しかし、現在は、約23%である」と問題視する。つまり、消費税は大企業と高所得者の減税に使われたのだった。
さらに「定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」のみに軽減税率が適用されて、「朝日」を含む新聞は財務省に抵抗できなくなった。いや、それどころか、彼らのチョーチン持ちになったのである。「思索のための食料」というなら、なぜ、書籍や雑誌には適用しなかったのか?
超富裕層が日本では激増していて、その人口がアメリカ、中国に次いで3位というのにも驚くが、食料品だけでも消費税をゼロにしない政府や財務省は国民の敵と言わざるを得ない。選挙を前に、消費税についての論議が盛んだが、どの政党が国民の味方で、どの政党が敵なのかを判断するのにこの本は有益である。 ★★半