物語人生論「心の力」が話題 姜尚中氏に聞く
東日本大震災からまもなく3年。景気回復のスローガンのもと、不確実な未来予測にあくせくしながら生きている現代人にとって、いま本当に必要な「心の力」とは何か。夏目漱石の「こころ」と、ドイツの文豪トーマス・マンの「魔の山」という100年前に書かれた東西のふたつの書から、今の時代を生きるためのヒントを引き出した本書「心の力」(集英社 720円)を上梓した姜尚中氏に話を聞いた。
■凡庸な人間の中にこそある「心を太く育てる力」
題材となっている夏目漱石の「こころ」が刊行されたのは、第1次世界大戦勃発の年(1914年)。一方のトーマス・マンの「魔の山」は物語自体が第1次世界大戦の戦闘場面で終わっており、双方とも「心が失われ始めた時代」の中で、もがきながら生きる青年が主人公として描かれているという共通点がある。
本書は、この東西2冊の書の主人公たちがその後に出会うという設定の小説を姜氏自身が創作し、エッセーと交互に登場させるというユニークな構成だ。その2人の主人公の物語から、混迷の時代の生き方を探す「物語人生論」と銘打っている。