戦争法案の議論を透視したような慧眼
「これは大丈夫か」
と言ったという。岸嫌いの田中にとっては石橋から聞いた忘れられない話だった。戦争犯罪人の容疑者として巣鴨プリズンに入れられた岸をそんな要職に据えていいのかということだろう。
現天皇は即位以後、一度も靖国神社に行っていないし、昭和天皇も敗戦直後に一度行っただけで、その後は行っていない。
田中は、それは昭和天皇の重臣たちを殺し、「陛下の政権を倒して、その平和政策を粉砕しようとした連中を神にまつるという」非常識なことをやったことに対する不快感が原因だと語っている。いわゆるA級戦犯の合祀だが、昭和天皇は田中に、直接、
「これでいよいよ私は靖国神社には行けなくなった」
と語ったという。次の指摘も鋭い。
「いま一番危険なのはね、湾岸戦争でもそうだったが、日本の艦隊や自衛隊を派遣しろと言う根強い声が依然としてあるでしょ。国際情勢から見たら当然だと思うかも知らんが、日本の内部事情を見ますと、それがきっかけになって、日本には軍国主義復活の危険性が常にあるんですよ」