新薬開発に携わったプロの話は具体的で迫力満点
「世界史を変えた薬」佐藤健太郎著
薬の力はすごいと感じたのは、先日、尿管結石で激痛が走ったときのことだった。とにかく痛い。叫んで、のた打ち回るくらい痛いのだ。ところが、事務所近くの診療所で処方してもらった座薬を入れたら、何事もなかったように痛みが消えた。
本書によると、縄文時代の人類の平均寿命は、わずか15歳だったという。何も対処をしないと病気で若死にするのだ。そうした状況は、歴史的にみると最近まで続いた。いまから100年前の日本人男性の平均寿命は42歳だったのだ。
人類が科学に基づいて医薬品を開発するようになったのは、19世紀後半からだという。それまでも薬はあったが、動物の血や糞尿、豚の耳垢など、いまから考えたら、むしろ害悪となるものを薬と信じて処方してきたのが、人類の歴史なのだ。
そうしたなかで本書は、ビタミンC、モルヒネ、アスピリン、エイズ治療薬など、合計10種類の薬を開発のエピソードから成分、効能、そしてその薬の登場が社会に与えた影響も含めて詳しく論じている。
「世界史を変えた」というタイトルは、少々オーバーだと最初は思ったが、本書を読むと、それが事実であることに得心がいく。例えば、中国からの茶の輸入で膨大な貿易赤字を抱えたイギリスが、中国にアヘンを売り込むことを思いつく。依存症の発生に苦慮した中国が輸入を禁止すると、イギリスとの戦争になり、敗れた中国は香港を割譲せざるを得なくなる。まさに、薬が歴史を変えているのだ。