「YOKAI NO SHIMA」シャルル・フレジェ著

公開日: 更新日:

 フランス人写真家が日本各地の祝祭や年中行事に登場する仮面や装束、キャラクターを撮影した写真集。

 八百万といわれる神々、百鬼夜行する鬼や妖怪の群れ、そして土地土地にすむ精霊たち。日本人の暮らしに古くから寄り添ってきたさまざまな存在は、折々に人間界に招かれ、もてなされてきた。それは五穀豊穣を願うとともに、災いを未然に防ぐための祈りからであった。

 理性的で異界の住人たちの存在を信じないフランス人の一人である著者は、祭りの主役である彼らを、あえてひとくくりに「YOKAI」と称し、著者の想像の中にだけ存在する架空の島にすむものという設定で紹介する。祭りの由来や「YOKAI」たちの素性は一切語られず(巻末で解説されてはいるが)、ポートレートのように並べられた写真は、彼らと馴染みの日本人には、やや違和感を抱くかもしれないが、さながら「YOKAI」図鑑の体をなしている。

 トップバッターはお馴染みの秋田の「ナマハゲ」。大晦日に家々を練り歩き、子どもたちを探して暴れまわる「ナマハゲ」も、日本海をバックにポーズをとっていると、何だか愛嬌すら感じてしまう。ナマハゲのように、藁蓑をまとい、仮面をかぶって子供がいる家を回る「来訪神」は、岩手県三陸沿岸部の「スネカ」や「タラジガネ」、秋田から遠く離れた種子島の「トシドン」(こちらは藁蓑の代わりにむしろを着用)など、各地にいる。

 ページが進むにつれ、知らない、見たこともない強烈な造形の「YOKAI」たちが続々と現れる。

 トカラ列島の悪石島の盆踊りに出現する「ボゼ」や、鹿児島県硫黄島や竹島の「メンドン」「タカメン」などの異形の仮面神、愛媛県遊子谷の鹿頭をかぶる「雄鹿」や、山口県の「鷺」といった動物頭、さらに旧正月の寒い時季、とがった蓑を頭からかぶり町を回りながら水を掛けられる山形の「カセ鳥」、そのお隣の宮城ではカセ鳥に似た蓑の頭の上に炎を表した角が生えている、名前のない火の神様の化身が家々に水を掛け回る「水かぶり」が行われる。

 中には、男性器に模した棒を踊り子がさすって子孫繁栄、豊作を祈願する新潟県佐渡島に伝わる「つぶろさし」「ちとちん」など、おおらかなキャラクターたちもいる。また、神や妖怪ではないが、胸に大太鼓を抱き、背中には直径5メートルもの「大花輪(花からい)」をさして踊る長崎県の「黒丸踊」の装束や宮城県の「早乙女」など、その豪快さと美しさに見とれてしまう。

 見れば見るほど、「外国人が撮影した日本の風物」という先入観がガラガラと崩れ、いかに自分が日本のことを知らなかったかを思い知らされる。先人たちの桁外れの想像力、造形力に、現代の漫画やアニメなどのキャラクターを生み出すDNAの源を見る思いがする。

(青幻舎 3800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  2. 2

    清原果耶ついにスランプ脱出なるか? 坂口健太郎と“TBS火10”で再タッグ、「おかえりモネ」以来の共演に期待

  3. 3

    だから桑田真澄さんは伝説的な存在だった。PL学園の野球部員は授業中に寝るはずなのに…

  4. 4

    PL学園で僕が直面した壮絶すぎる「鉄の掟」…部屋では常に正座で笑顔も禁止、身も心も休まらず

  5. 5

    「ニュース7」畠山衣美アナに既婚者"略奪不倫"報道…NHKはなぜ不倫スキャンダルが多いのか

  1. 6

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 7

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  3. 8

    ドジャース大谷 今季中の投手復帰は「幻」の気配…ブルペン調整が遅々として進まない本当の理由

  4. 9

    打撃絶不調・坂本勇人を「魚雷バット」が救う? 恩師の巨人元打撃コーチが重症度、治療法を指摘

  5. 10

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した