著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「狼の領域」C・J・ボックス著 野口百合子訳

公開日: 更新日:

 猟区管理官ジョー・ピケットを主人公とするシリーズの最新作だが、いやあ、すごいぞ。これまでのベストは第4作「震える山」か、第8作「ゼロ以下の死」だと思っていたが、今回はその2作を超えたのではないか。ちなみに、本書はこのシリーズの第9作だが、これまでの作品を読んでなくても大丈夫なので安心して手に取られたい。

 冒頭は、ジョー・ピケットが山の中で圧倒的な存在感をもつ双子の男と会う場面である。彼らは、肉体的にも強靱で、精神的にもタフな男たちであることがわかる。戦ったら負けるだろうとピケットは考える。問題はこの先で、しかしピケットは職務を遂行することを優先するのだ。自分のプライドを満たしながら男たちとの対決を避ける方法はいくらでもある。そちらを選ぶのが夫であり、父親である男の一般的な選択だろう。ところがピケットは、それを承知の上で、対決を選ぶのである。

 冒頭のこの挿話の中に、本書のすべてがある。緊迫したクライマックスを見よ。双子の男たちとたった一人で対決するということは、死を覚悟するということだ。愛する妻と、愛する子供が、悲しむということだ。それでも、この男は死地に赴くのである。決して複雑な話ではない。というよりも、ものすごくシンプルな話といっていい。しかし、不自由な生き方しか選べないピケットの性格が、緊迫した物語を生み出している。傑作だ。(講談社 1000円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    気持ち悪ッ!大阪・関西万博の大屋根リングに虫が大量発生…日刊ゲンダイカメラマンも「肌にまとわりつく」と目撃証言

  2. 2

    永野芽郁「鋼のメンタル」も文春砲第2弾でついに崩壊か?田中圭との“口裏合わせ”疑惑も浮上…CMスポンサーどう動く

  3. 3

    水谷豊に“忖度”?NHK『BE:FIRST』特集放送に批判…民放も事務所も三山凌輝を“処分”できない事情

  4. 4

    佐々木朗希「中5日登板志願」のウラにマイナー降格への怯え…ごまかし投球はまだまだ続く

  5. 5

    竹野内豊はついに「令和版 独身大物俳優」となった NHK朝ドラ『あんぱん』でも好演

  1. 6

    中居正広氏“反撃準備”報道のモヤモヤ…改革着々のフジテレビ尻目に「電撃復帰」への布石か

  2. 7

    永野芽郁の「清純派枠」を狙うのは"二股不倫報道”の田中圭と同じ事務所の有望株という皮肉

  3. 8

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意

  4. 9

    役者・林与一さん83歳の今も現役「糖尿病家系で甘いモノ好き。血糖値が問題ないのは運動のおかげ」

  5. 10

    囁かれる岸田前首相“再登板”に現実味? 一強時代到来で「安倍超え」に虎視眈々