「ショコラ」ショコラとは「茶色い肌」に対する差別後
サーカスは楽しいがサーカスの映画は舞台裏を描くぶんだけ物悲しさが相場になる。来週末封切りの「ショコラ」もその定石に沿った話題のフランス映画。実在の白人・黒人道化師コンビをめぐる典型的なエレジック・コメディー(哀愁喜劇)だ。
舞台は1世紀前のパリ。田舎サーカスの落ち目の道化師フティットがたまたま見つけた黒人芸人をボケ役に仕立てたところ、予想外の人気を得てパリの有名一座の花形にまで躍り出る。その相棒がショコラ。「チョコレート」のフランス語読みだが、実は「茶色い肌」への差別の隠語でもある。要はおフランス人のほうが意地悪なのである。
このショコラを演じるのがオマール・シー。映画「最強のふたり」で初の黒人セザール賞主演俳優になったが、彼を見ているとアメリカ映画が差別を描くときとは微妙に異なる、褐色の肉体に向けられたフランス流の無意識の好奇心がわかる。
思い出したのはジュリアス・レスター、ロッド・ブラウンの歴史絵本「あなたがもし奴隷だったら…」(あすなろ書房 1800円)。黒人画家ブラウンの描くアフリカ西海岸から奴隷船で運搬された奴隷黒人たちの悲劇を絵本に描くという大胆な試みだが、ブラウンの描く褐色の裸体の有無を言わせぬ迫力は好奇も同情も寄せつけない独特のもの。これを見るとアメリカが「黒人大統領」を得たのがいかに重大事だったのか、改めて感じられるのだ。
ちなみに映画の封切り前日の金曜日は何の日? 答えは「トランプ大統領就任式」。絶句のほかない悲劇の開幕だろうか。
(生井英考)