【海外文学】大家族に勇気と希望を与えたあるモノ

公開日: 更新日:

 そのばあさんには息子が5人いる。ばあさんといっても、まだ57歳。棒のように痩せこけ、歯はむしばまれ、真っ黒い穴があいている。顔には無数のシワが刻まれ皮膚病のように見える。長年の放浪生活で、寒暖の厳しさに耐えて生きてきた。戦時中は同じ民族が収容所に送られ、虐殺された。世間からは今もなお迫害されている。戸籍も登録されず、教育も社会保障も受けることができない。

 それでも、ばあさんは陽気だ。喜びに満ちた今の生活が好きだ。5人の息子たちもみな一緒に暮らしている。長男は独身だが、ほか4人にはそれぞれ嫁がいる。好き嫌いはあるが、嫁も自分の娘だと思っている。駆け回る孫たちが大きくなるのを見ながら、今日もばあさんはたき火の前に座る。

 そんな大家族の元にある日突然、外人の女が現れた。外人と呼ぶのは彼ら独特の警戒心から。その女はあるモノを手に毎週訪ねてきた。それは小さな子供たちに夢をもたらした。女たちには勇気と希望を与えた。男たちには戸惑いと気づきを与えた。ばあさんは変わらない。自分の誇りは捨てない。ただ、その外人の女が未来永劫抱える悲しみをばあさんも知っている。あるモノの力、そして心の交流が淡々と、かつ深く描かれている。

【連載】書名のない書評「ゲンダイX本」

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  2. 2

    清原果耶ついにスランプ脱出なるか? 坂口健太郎と“TBS火10”で再タッグ、「おかえりモネ」以来の共演に期待

  3. 3

    だから桑田真澄さんは伝説的な存在だった。PL学園の野球部員は授業中に寝るはずなのに…

  4. 4

    PL学園で僕が直面した壮絶すぎる「鉄の掟」…部屋では常に正座で笑顔も禁止、身も心も休まらず

  5. 5

    「ニュース7」畠山衣美アナに既婚者"略奪不倫"報道…NHKはなぜ不倫スキャンダルが多いのか

  1. 6

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 7

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  3. 8

    ドジャース大谷 今季中の投手復帰は「幻」の気配…ブルペン調整が遅々として進まない本当の理由

  4. 9

    打撃絶不調・坂本勇人を「魚雷バット」が救う? 恩師の巨人元打撃コーチが重症度、治療法を指摘

  5. 10

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した