【チェコ文学】 突如、残虐な役柄に選抜される読者

公開日: 更新日:

 舞台は1950年代、秘密警察が跳梁跋扈し、隣人さえもが不信の時代。チェコの都市ブルノで物語は繰り広げられる。

 第1部では、熱い理想を抱くも俗悪な依頼に応えてきた建築家の男と、不倫調査専門の私立探偵の男が主軸である。建築家の男は、家族思いであるがゆえに脅迫と陰謀にさらされ、心を乱す。悪夢にもさいなまれる。一方、私立探偵の男は、ヨガを取り入れた隠し撮り法を確立し、狙った獲物は逃さない。不倫の結合写真を密かに収集しているゲスな男だ。異なる背景と素性の男たちが、ひとりの男の失踪でつながっていく。

 第2部では、第1部で散在していたピースがカチッとはまる。ただし、はまるのはごく一部。さらに、語り手が「わたし」から「あなた」に。突如、読者はこの物語に巻き込まれていくのだ。残虐な役柄に急きょ抜擢され、「あなた」はさぞや戸惑うことだろう。しかし、真実を知りたい欲求に駆られて、ページを手繰る手を止められないはずだ。

 第3部は驚愕の結末。慧眼の読者はすでに気づいていたかもしれないが、ある人物が登場する。

 外国文学に親しみがない人は、やや難航するかもしれないが、50年代は間違いなく恐怖と狂気の時代だったと分かる小説である。

★先週のX本はコレでした

「堆塵館」
エドワード・ケアリー著 東京創元社 3000円+税

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    悠仁さま「進学に向けた勉学の大切な時期」でも続く秋篠宮家と宮内庁の軋轢

  2. 2

    初V京都国際の《正体》と《左腕王国の秘密》…野球部“以外”の男子生徒わずか12人

  3. 3

    山陰まで及ぶ大阪桐蔭・西谷監督のスカウト活動範囲…《最新車で乗り付けてきた》の声も

  4. 4

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  5. 5

    目黒蓮をCMに再起用したコーセーにSnow Manファン大暴走 佐久間大介も別問題でファンに苦言

  1. 6

    「Snow Man=めめ以外は演技下手」定着のリスク…旧ジャニのマルチ売りに見えてきた限界

  2. 7

    もはや任意じゃなくて強制…12月2日のマイナ保険証一本化に向けて強まる国民への包囲網

  3. 8

    離職後、定年後は何をしたい? 第2位「まだ考えていない」…では第1位は?

  4. 9

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  5. 10

    "キムタク神話崩壊"へ秒読み…通算3作目ソロアルバムが1stから56%ダウンの惨憺