好きな本に宿る「書妖」たち
「貸出禁止のたまゆら図書館」一石月下著 富士見L文庫 660円+税
【話題】映画の「ハリー・ポッター」に登場するホグワーツ魔法魔術学校の図書館はセットではなく、実在のオックスフォード大学のハンフリー公図書館だそうだが、物語の幻想的な雰囲気を醸し出している。これに限らず、図書館とファンタジーは相性がよく、図書館を舞台にしたファンタジーは多く、本書もそのひとつ。
【あらすじ】この春に高校進学を控えていた千穗は、急きょ引っ越すことになった。体の弱い弟の転地療養のために、家族で都会から山村へ移ることにしたのだ。
せっかく受かった高校を諦め、友人たちと別れなければならなくなった千穗は家族と距離を置くようになる。新しい学校にも馴染めず、入学式を終えて家路につく途中、武家屋敷のような立派な建物を見つけた。看板に〈たまゆら図書館〉とある。中に入ると、誰もいない。書棚を眺めていると「落下の夢」という本が目に入り、まるで本の中に吸いこまれるように読みふけった。
読み終えると見知らぬ青年が横に立っていた。聞くと、彼は書妖の白火といい、本に取りつく妖怪で、本の内容に強く共感した千穗のおかげで姿を現すことができたのだという。何とも不思議な話だが、千穗は他の書妖たちとも仲良くなり、以後、足しげく図書館に通うようになる。掃除などの手伝いのほか、来館者の求めに応じて悩みを解決したりして人と関わっていくうちに、千穗は、いつしか自分が抱えていた疎外感が癒やされていることに気づく――。
【読みどころ】古来日本には、古い道具などに宿る付喪神という妖怪がいるが、書妖もその仲間だろう。本書には「藪の中」「伊豆の踊子」などの書妖が登場するが、自分の好きな本にはどんな書妖が宿っているのかと、その姿を想像するのも楽しい。〈石〉