本から本への素敵な旅
「図書室のキリギリス」竹内真著 双葉文庫 676円+税
【話題】図書館のイベントのひとつに「ブックトーク」がある。あるテーマにそって、何冊かのさまざまなジャンルの本を紹介し、その本を読みたいという気持ちを起こさせ、知らなかった本や知らなかった分野に出合う楽しみを伝えることを目的とする。高校の新任司書である本書の主人公も、図書委員の生徒たちとこのイベントをやることで、一気に距離が縮まっていく。
【あらすじ】夫が失踪して3年経ち、法廷離婚事由が成立したことで、詩織は正式に離婚届を出し、名字を高良に戻した。次に仕事を探さなくてはならない。
そこへ親友のつぐみから、彼女が勤めている高校で図書室の司書の空きができたので、面接を受けてみないかと言ってきた。特別な資格は必要なく、昔から本が好きだったこともあり面接に行くと、運良く1年間の任期採用職員として採用される。
先任の司書に会いに行き、その町で行われたブックトークに刺激を受けた詩織は、新学年の図書委員たちに、自分たちもやってみないかと誘ってみる。試しにやってみると、これが大成功。そこで、おすすめキャッチコピーを競うブックマークコンテスト、テーブルごとに本の感想を話し合うブックテーブルも加えて、秋の文化祭でブックトークを行うことにした。
そんなとき、詩織がたまたま目にした文芸誌に、ノンフィクション文学新人賞の候補者の一人に元夫の名前が載っていた……。
【読みどころ】離婚して再スタートを図る詩織が、本を通して大きく社会に心を開いていく姿が温かく描かれていくが、それに刺激されて本に目覚めていく生徒たちの成長ぶりも心を動かされる。登場する本には巻末に作者の解説が付され、本から本への素敵な旅をいざなってくれる。
〈石〉