最新SF小説特集

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 面倒な雑事を忘れて本に没頭したいと思ったら、SF小説の世界に飛ぼう。常識で凝り固まった頭を刺激する、もうひとつの世界がそこには待っている。今回は、人工知能やロボット、宇宙、トンネル、地下都市など、まだ見たことがない世界が広がるSF5冊をご紹介! 

「カムパネルラ」山田正紀著

 宮沢賢治の研究者だった母の遺言を果たすため、遺灰を抱えて花巻を訪れた「ぼく」は、そこがいつの間にか昭和8年9月であることに気づいた。それは賢治が無理をして人と会ったために亡くなった2日前だったため、今なら死を防ぐことができるのではないかと考えた「ぼく」は、宮沢家を訪れる。しかし、そこで知ったのは賢治が5年前にすでに亡くなっており、逆に死んだはずの賢治の妹が生きていたこと。しかも、町の住人から「ぼく」は、なぜか「ジョバンニ」と呼ばれ、さらなる物語の世界に巻き込まれていく―─。

 本書は、宮沢賢治の小説「銀河鉄道の夜」を下敷きにしたSFミステリー。メディア管理庁と呼ばれる思想統制を担当する省庁が支配する世界で、賢治の言葉が政治利用され、「銀河鉄道の夜」の最終稿がなきものにされていく。既存の小説を舞台に謎を追いかけるというアイデアと、思想統制という風刺の効いた設定が何とも秀逸だ。(東京創元社 1800円+税)

「スペース金融道」宮内悠介著

 主人公は貸金業者・新星金融に勤める債権回収担当・ケイジ。いわゆる街金だが、会社組織は宇宙規模に広がっており、ケイジが所属するのは、人類が最初に移住に成功した太陽外惑星にある二番街支社だ。貸した金はどんな場所にでも必ず回収に行くという方針の下、容赦のない上司・ユーセフに言われるがまま、宇宙中を駆け回る過酷な日々を送っている。主な顧客は大手金融が相手にしないアンドロイド。返済不能になったアンドロイドが別のアンドロイドを乗っ取り、元の体を破棄するといった借金逃れの方法を真似る模倣犯まで出現するなど、油断のならない顧客を相手に、あの手この手の攻防戦を繰り広げるのだが……。

 返済可能な相手なら、たとえ仮想空間に住む人工知能などの債権者であっても貸し付けをするという設定の中、金貸しのルールが生み出すスケールが大きくなったハチャメチャな世界を軽妙に描く。金融工学を宇宙に持ち込んだSF版金融道コメディー。(河出書房新社 1600円+税)

「夢みる葦笛」上田早夕里著

 早川書房が毎年発表するベストSFの2016年度版で国内SF第1位に選ばれた短編集。宇宙開発用の人工知性、記憶を蓄積した石、生体脳と機械脳、地下都市と人工生物、未知の惑星に生息する生物を調査する宇宙生物学、家族や友人を失った人間の悲しみを癒やすメモリアルアバターなど、多彩な現代SFのテーマが絵のように描かれた10編が収録されている。

 表題作「夢みる葦笛」は、「頭がイソギンチャクになった人」と形容される、顔に目も鼻も口もなく、頭のてっぺんから何十本もの長い触手が垂れ下がっている人型の生命体「イソア」が街中に出現した世界を描いたもの。イソアが奏でる音楽は多くの人を引きつけるものの、作曲家の亜紀はその声に気持ち悪さを感じ、イソアの声を聞かなくてもいい場所に逃亡する。

 しかし、人の心をとりこにするイソアの増殖は止められず、次第に亜紀は追いつめられていく。日常的で自然な語り口で始まるにもかかわらず、いつの間にか読者を異界に連れていく、著者の筆力が光る。(光文社 1500円+税)

「人はアンドロイドになるために」石黒浩、飯田一史著

 ロボットやアンドロイドの研究者と、ライターがペアを組んで、「いずれ実現するかもしれない近未来」の物語を小説化した、限りなくリアルに近いSF小説集。「アイデンティティ、アーカイブ、アンドロイド」「遠きにありて想うもの」「とりのこされて」「時を流す」「人はアンドロイドになるために」の5編の小説の間には、「石黒教授と三人の生徒」という、石黒自身をキャラクター化した解説対話集を収録している。

 冒頭の「アイデンティティ――」は、自分そっくりのアンドロイドを作ってしまった人気歌手ハルと、アンドロイドを巡る意見の対立でハルと組んでいた音楽ユニットの解散を決めたユキの葛藤を描いたもの。アンドロイドに対する人々の感情や、そこで問われるアンドロイドと人の関係性など、技術の進歩に伴ってアンドロイドが出現した際に浮上してくる、哲学的かつ倫理的なテーマを、物語の形でわかりやすく提示している。(筑摩書房 1900円+税)

「ILC/TOHOKU」小川一水、柴田勝家、野尻抱介著

 ILC(国際リニアコライダー)をつくる有力な候補地として、注目を集める岩手県の北上山地。本書は、このILCが建設された未来の東北を舞台にした3人のSF作家による競作集だ。
 ILCとは、全長約30キロのトンネル内で電子と陽子を衝突させてビッグバン状態を再現し、宇宙の誕生や素粒子の起源、自然の基本法則について研究するための装置のこと。震災後の東北復興と科学振興の旗印として、いま期待を集めている。
 冒頭の野尻の「新しい塔からの眺め」は、ILC研究のために東北を訪れた米国の科学者エレン・ベーカーが主人公。ILC公開日に知り合った一人の少年とその母親との出会いをきっかけに、素粒子物理学の新しい扉を開いていく物語となっている。物理の専門用語は、欄外に解説もありわかりやすい。
 タイムトラベルの要素をリンクさせた柴田の「鏡石異譚」、建設を巡る人間ドラマを盛り込んだ小川の「陸の奥より申し上げる」も加えて、三者三様のILC後の世界が楽しめる。(早川書房 1500円+税)

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