家族もカネも老後の安泰にはつながらない
現代の日本では、「高齢者のひとり暮らしはかわいそう」と憐れみ、孤独死を忌む風潮がある。しかし、独居老人は誰もがわびしく不幸なのだろうか。家族と経済的安泰さえあれば、本当に幸せな老後が送れるのだろうか。その答えを探るのが、今まさに老後を生きている高齢者をルポした、新郷由起著「絶望老人」(宝島社 1300円+税)だ。
かつて旅行会社に勤務していた69歳の二見宏明さん。渡航先は30カ国にものぼり、国内外に友人も多い。39歳のときに結婚したものの、子供をつくらず3年後に離婚。現在は独身で、好きな映画や絵画鑑賞三昧のハッピーな毎日を送っているが、“ひとり暮らしの高齢男性”への偏見と風当たりに悩まされているという。
「厄介ごとを持ち込むんじゃないかと、色眼鏡で見られがち。資源ゴミの日に雑誌を出したら、階下のオバサンに犯罪系の本がないか調べられて、明らかな人権侵害だよ」と憤る。それでも、自由な毎日は何物にも替えがたい。「生きる」とは「今を楽しむ」の連続であり、寂しさはあるが、孤独を楽しむ余裕と好奇心があれば、ひとりの老後も悪くないと語る。
二見さんと対照的な人生を送るのが、80歳の横山康弘さんだ。1男2女をもうけ、金融系企業で出世街道を驀進。順風満帆な人生のようだが、夫婦間に愛情はなく、59歳で妻が亡くなったときも喪失感はゼロ。妻の部屋で見つかった段ボール20箱分ものブランド品の数々に、怒りしか湧いてこなかったという。
さらに、同居を持ち掛けてきた長男からは、徹底的に金をむしり取られた。仕事の開業資金から日々の買い物代まで、「チンピラよりたちが悪かった」と横山さんは振り返る。ほうほうの体で長男から逃げ、現在は賃貸マンションにひとり暮らし。同居前に2700万円あった預金は800万円に減ってしまったが、「ひとりの今が一番気ラク」と語る。
ほかにも、激安居酒屋で孤独を癒やす老紳士や夫の死後に第二の人生を謳歌する未亡人の姿など、35人の生きざまを紹介。気の遠くなるほど長くなった日本人の老後に、本当に必要なものは何かを考えさせられる。