「女たちの避難所」垣谷美雨著
「女たちの避難所」垣谷美雨著
3月11日に起きた地震と津波に遭遇し、命からがら避難所にたどり着いた異なる年代の女性3人を主人公に描く震災小説。
55歳の福子は津波に流されていた少年を連れ、乳飲み子を抱いた28歳の遠乃は舅と義兄と、息子とはぐれたシングルマザーの渚は一人、避難所にやってきた。
ところがリーダーを買って出た男性が「絆と親睦」の名のもと仕切りは使わない、と宣言。遠乃は赤ん坊に授乳する姿を舅にのぞかれ、さらに姑を見殺しにしたとなじられた。トイレは男女兼用、自衛隊の野営風呂にも「男を先に入れろ」と迫り、レイプ未遂は黙認。そんな男尊女卑がはびこる避難所で3人は出会った。
彼女たちの被災体験から浮き上がるのは、日本社会の縮図であり、女性の生きづらさだ。何かと依存してくる「夫」、「みんな大変だから」と抑え込まれる不満、共同体の圧力。読み進めるうち、災害の際にも女性の我慢が前提の日常に、ふつふつと怒りが湧いてくる。
(新潮社 737円)