「欠歯生活」北尾トロ著
約15年前のある日、妻と家で食事をしていて、オムレツの一切れを口に入れたとき、噛んだ右側のアゴが急に軽くなったような気がした。なんということか、1992年に七十数万円をかけて入れたインプラントの奥歯が折れていたのだ。
慌ててそのインプラント治療をしてくれた歯医者に駆け込んだら、「あっ、折れてますね」と平然と言われ、「10年間は保証すると言ってたけど、まさか、保証期間が過ぎてすぐに壊れるとは」と釈然としない思いのまま、赤坂にあるそのクリニックの本店に行くと、そこでもまたインプラを勧められた。費用は5本で350万円なり。
ここから、著者の医者探しの放浪の旅が始まった。そして最後に出合ったジルコニアフレームという新技術とは何だったのか。涙と笑いの欠歯ノンフィクションである。(文藝春秋 1700円+税)