著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「楽園」キャンディス・フォックス著 冨田ひろみ訳

公開日: 更新日:

 シドニー州都警察殺人捜査課と副題のついたシリーズ第2作だ。とはいっても、続いているわけではないので、安心して手に取られたい。

 これは、刑事フランクと相棒の女性刑事エデンの2人が活躍するシリーズで、その第1作「邂逅」の衝撃的な内容にはびっくりしたものだが、今回は落ち着いているのでゆっくりと楽しめる。とはいっても、エデンの養父ハデスは相変わらず健在で、今回はハデスの子供時代から始まって、なぜ彼が闇の世界で生きるようになったのか、その過去の物語が現在進行形の事件の合間を縫うように、次々に挿入されてゆく。

 そうなのである。養父ハデスはシドニー郊外で廃棄物処理場を経営しているのだが、闇夜に持ち込まれる死体の処理を請け負う裏の社会の実力者なのだ。なぜそういう人間がエデンの養父になったのか、という事情については前作で克明に描かれたので、本書で興味を感じた方はぜひそちらをお読みください。この第2作では、そのハデスが裏社会でのしあがることになった経緯が描かれるのである。このハデスの存在が、本シリーズを異色の警察小説にしている点は見逃せない。

 現在進行形の事件は、若い女性の失踪事件。その捜査のためにエデンは身分を偽って農場に潜入していく。はたして彼女の正体はばれないのか。今回もたっぷりと読ませて飽きさせない。異色警察小説の傑作だ。(東京創元社 1400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

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