著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「諦めない女」桂望実著

公開日: 更新日:

 ストーリーを紹介できない小説がある。それをしてしまったら、読書の興をそいでしまうからだ。まれにそういう小説がある。

 本書もそういうタイプの小説なので、いささか頭が痛い。どうやって紹介すればいいか。全3章の小説なのだが、第1章は紹介することが出来る。

 小学生になったばかりの幼い娘が行方不明になるのだ。牛乳を買い忘れたのでスーパーに買いに行き、戻ってみると入り口近くのベンチに居たはずのわが子がいない。そこから幼子を捜す母親の苦労の日々が始まっていく。母親は絶対に諦めない。そのうちに夫との間に隙間風が吹き始め、結局は離婚することになるが、それでも彼女は諦めない。第1章はそういう母親の話である。

 紹介できるのはここまでだ。一つだけ付け加えておくと、この小説は、幼子が行方不明になったその日から12年後に、ノンフィクションライターが関係者を取材する形で進んでいく、という構成になっている。これは第2章、第3章になっても変わらない。

 しかし、続く第2章で何が語られるのか、第3章で何が語られるのか。それは紹介しないほうがいい。知らずに読むと、「ええっ、こうなるのかよ」と驚くことは必至。桂望実はときにこういうふうに構成に凝った作品を書くが、これはそちらのタイプの傑作だ。最後まで読むと、「諦めない女」とは誰のことを指すのかがわかってくる構成もうまい。(光文社 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    朝ドラ「あんぱん」教官役の瀧内公美には脱ぎまくった過去…今クールドラマ出演者たちのプチ情報

  2. 2

    中井貴一の“困り芸”は匠の技だが…「続・続・最後から二番目の恋」ファンが唱える《微妙な違和感》の正体

  3. 3

    大阪万博会場の孤島「夢洲」で水のトラブル続出の必然…トイレ故障も虫大量発生も原因は同じ

  4. 4

    渋谷区と世田谷区がマイナ保険証と資格確認書の「2枚持ち」認める…自治体の謀反がいよいよ始まった

  5. 5

    Kōki,主演「女神降臨」大爆死で木村拓哉がついに"登場"も リベンジ作品候補は「教場」か「マスカレード」シリーズか

  1. 6

    森友文書の一部欠落で財務省が回答…公表された概要リストに「安倍昭恵」の名前

  2. 7

    巨人阿部監督がオンカジ送検の増田大輝を「禊降格」しないワケ…《中心でなくても、いないと困る選手》

  3. 8

    早実初等部を凌駕する慶応幼稚舎の人脈網…パワーカップルを惹きつけるもう一つの理由

  4. 9

    オンカジ騒動 巨人オコエ瑠偉が「バクダン」投下!《楽天の先輩》実名公表に現実味

  5. 10

    迷走続く「マレリ・ホールディングス」再建…金融界の最大の懸念は日産との共倒れ