「諦めない女」桂望実著
ストーリーを紹介できない小説がある。それをしてしまったら、読書の興をそいでしまうからだ。まれにそういう小説がある。
本書もそういうタイプの小説なので、いささか頭が痛い。どうやって紹介すればいいか。全3章の小説なのだが、第1章は紹介することが出来る。
小学生になったばかりの幼い娘が行方不明になるのだ。牛乳を買い忘れたのでスーパーに買いに行き、戻ってみると入り口近くのベンチに居たはずのわが子がいない。そこから幼子を捜す母親の苦労の日々が始まっていく。母親は絶対に諦めない。そのうちに夫との間に隙間風が吹き始め、結局は離婚することになるが、それでも彼女は諦めない。第1章はそういう母親の話である。
紹介できるのはここまでだ。一つだけ付け加えておくと、この小説は、幼子が行方不明になったその日から12年後に、ノンフィクションライターが関係者を取材する形で進んでいく、という構成になっている。これは第2章、第3章になっても変わらない。
しかし、続く第2章で何が語られるのか、第3章で何が語られるのか。それは紹介しないほうがいい。知らずに読むと、「ええっ、こうなるのかよ」と驚くことは必至。桂望実はときにこういうふうに構成に凝った作品を書くが、これはそちらのタイプの傑作だ。最後まで読むと、「諦めない女」とは誰のことを指すのかがわかってくる構成もうまい。(光文社 1600円+税)