白石あづさ
著者のコラム一覧
白石あづさ

日本大学芸術学部卒。地域紙の記者を経て約3年間の世界放浪へと旅立つ。現在はフリーライターとして旅行雑誌などに執筆。著書に「世界のへんな肉」「世界のへんなおじさん」など。

レディー・ガガもびっくりの奇抜な髪形

公開日: 更新日:

「マリー・アントワネットの髪結い」ウィル・バショア著 阿部寿美代訳

 世界を旅できても時代は旅できない。フランスで訪れたベルサイユ宮殿は豪華だったが、18世紀の全盛期をのぞいてみたかった。本書では上京し世界一の髪結いを目指すレオナールが見た宮殿の中が書かれているが、派閥に嫉妬、三角関係や見えの張り合いと、ぶっ飛んだ女子高のようで面白い。

 そんな狂った世界を持ち前の愛嬌と櫛一本で泳いでいくレオナール。最初は伯爵夫人に取り入り、次に王様の妾、そしてついにアントワネット専属の髪結いにまで上り詰める。レオナールを有名にしたのは、顎から1メートルの高さまでうずたかく巻き上げ、ダチョウの羽を3本突っ込んだレディー・ガガもびっくりの髪形だ。

 今まで誰も見たことがない、雲がかかる中国の山水画のような奇抜な頭は大絶賛され、調子に乗って、次は火のような色のリボンをからめた“彗星ヘアスタイル”でアントワネットを劇場に送り出す。

 それも一晩でセンセーションを巻き起こし、スカーフやリボン、宝石、ケーキやタルトまで彗星大ブームがパリに到来するのである。そんなばかな。何か裏があるに違いないと思いきや、実は劇場の中にレオナールが協力者を仕込み、髪形を大声で褒めちぎらせていたのだ。それってステマじゃないか! 

 ノッポでド派手な髪形ブームはとどまるところを知らず、サクランボをつつくオウムやアフリカの少年などのろう人形を髪に練り込む人もいれば、船の模型を頭に載せる軍人の妻も出現。未亡人に至っては骨壺を髪の中に埋め込んだというから、もはや動く墓場である。

 しかし、アントワネットが国民を巻き込んでぜいたくに突き進んでいる間に人気は失墜。現在の文春砲だろうか、「王妃に5人の愛人」というスキャンダラスな冊子も出回り窮地に陥っていく。後半は髪結いの仕事はどこへやら、レオナールの命をかけた007も顔負けの王妃救出大作戦だ。ベッキー不倫も叶姉妹のゴージャスも、すべてが小粒に見えるこの一冊、長いけれどぜひ読んでいただきたい。(原書房 2800円+税)

【連載】白石あづさのへんな世界

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    元横綱・白鵬に「伊勢ケ浜部屋移籍案」急浮上で心配な横綱・照ノ富士との壮絶因縁

    元横綱・白鵬に「伊勢ケ浜部屋移籍案」急浮上で心配な横綱・照ノ富士との壮絶因縁

  2. 2
    スッカラカンになって帰国のはずが…ラスベガスのカジノで勝った

    スッカラカンになって帰国のはずが…ラスベガスのカジノで勝った会員限定記事

  3. 3
    西武激震!「松井監督休養、渡辺GM現場復帰」の舞台裏 開幕前から両者には“亀裂”が生じていた

    西武激震!「松井監督休養、渡辺GM現場復帰」の舞台裏 開幕前から両者には“亀裂”が生じていた

  4. 4
    なぜ15大会のスポンサー企業は日本女子プロゴルフ協会に“抗議文”を送ったのか

    なぜ15大会のスポンサー企業は日本女子プロゴルフ協会に“抗議文”を送ったのか

  5. 5
    1場所4人じゃ終わらない…元横綱白鵬の旧宮城野部屋勢“廃業ラッシュ”はこれからだ

    1場所4人じゃ終わらない…元横綱白鵬の旧宮城野部屋勢“廃業ラッシュ”はこれからだ

  1. 6
    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  2. 7
    石原裕次郎(13)慶応病院に入院…同乗したエレベーターを降りる際に掛けられた言葉

    石原裕次郎(13)慶応病院に入院…同乗したエレベーターを降りる際に掛けられた言葉会員限定記事

  3. 8
    ミス・インターナショナル 特派員協会で「涙の訴え」のワケ

    ミス・インターナショナル 特派員協会で「涙の訴え」のワケ

  4. 9
    (26)第3作「男はつらいよ フーテンの寅」では寅さんを地面に叩きつけた

    (26)第3作「男はつらいよ フーテンの寅」では寅さんを地面に叩きつけた会員限定記事

  5. 10
    元衆院議員・若狭勝氏は女帝と断絶して7年「今は本当に幸せ」

    元衆院議員・若狭勝氏は女帝と断絶して7年「今は本当に幸せ」