帝国データバンク調査員が明かす地獄エピソード
「あの会社はこうして潰れた」藤森徹著 日本経済新聞出版社850円+税
一流大学を出て、大手企業に就職したはずの友人が暗い。聞けば、ボーナスは現物支給、ついにライバル企業に吸収され、見切りをつけて転職していく同僚を「あいつも脱北」、親会社との間にある垣根を「38度線」と呼ぶそうな。出世街道まっしぐらのはずが、いきなり修羅の道を歩むことになって気の毒だ。
最近では、てるみくらぶの惨事が記憶に新しい。新聞にどでかい広告を出しながらも、黒い噂はくすぶり、ある日、どっかーん! と大噴火。イケイケドンドンに見える会社でも、本当のことは分からない。そこで依頼された会社を調べ上げ、調査結果を売るのが帝国データバンクという企業だ。本書には、その調査員による企業倒産や破産寸前の地獄エピソードが描かれている。
借金が返せないのに巨額広告を打って銀行に激怒されるジーンズのエドウイン、ハーバード大卒の4代目“甘ちゃん経営者”がカモにされて傾いたアイスノンの白元、元AKBのMを広告塔に使って話題になったリゴレの超速の転落……と老舗企業もベンチャーもあっけなく最後を迎えていくのだが、どこに就職をしてもロシアンルーレット状態だと腹をくくるしかない。
おお、そして恐ろしいことに、われらが出版界の闇にもザクザク切り込んでいる。最近の若者が本を読まないから、出版社が潰れるのだと憤慨するも、実はその逆で、儲かって浮かれて業務を拡大中の出版社のほうが危ないようだ。大ヒット本「こびとづかん」の作者が三くだり半を突き付けたことが致命傷になった長崎出版、斬新な企画を次々と生んだギャル雑誌「小悪魔ageha」のカリスマ編集長が見捨てたインフォレストの経営の泥沼っぷりに驚く。
出版界の隅っこで地味に生きている私をだまそうとする人は今のところ出てこないが、うっかり著書が売れて大金が振り込まれたら大変だ。きっと悪い出版社が寄ってくるに違いない。そんなときは調査員が企業の何をチェックしているのか熟読するとしよう。