猫が“獲物”を見せにくるのは飼い主の訓練のため!?
日本は今、空前の猫ブームだ。平成28年の犬猫飼育実態調査では、犬が987万8000頭、猫が984万7000頭で、その差はごくわずか。5年ほど前までは犬の飼育頭数がおよそ200万頭も多く、猫人気の急速な高まりがうかがえる。
そんな猫ブームの日本にもってこいの研究書が出版された。パウル・ライハウゼン著、今泉みね子訳「ネコの行動学」(丸善出版 3500円+税)である。1998年に出版された同名著書の復刻版だが、動物学の視点から猫の行動が論じられた本書は、猫好きのバイブルとも言える大著だ。
猫を飼っている人にはお馴染みの光景だが、猫は捕獲した鳥やネズミや虫の死骸を、頻繁に飼い主の元に運んで並べて見せることがある。人間は、猫がどんなに自分が勤勉かを飼い主に自慢したいのだと解釈して頭をなでてやったりするが、動物学の視点から見れば、これは人間の大きな勘違い。獲物を並べて見せるのは、親猫が子猫を育てる過程で行う、獲物捕獲行動の訓練の一環なのだという。
猫は生後3週間程度で獲物を捕らえる動きを見せるようになる。忍び寄る、飛び掛かる、素早くつかむといった行動だ。そして、獲物捕獲行動の発達の中で一番最後、生後6週間ごろに表れるのが、殺しのための噛みつきなのだという。獲物を殺すためには、激しい興奮が引き起こされる必要がある。
しかし、まだ母親のおっぱいを飲んでいる間は、殺しの噛みつきは必要ない。逆に、早めに殺しの噛みつきが表れれば母親のおっぱいを傷つける可能性があるため、もっとも遅れて表れると推測できるという。
生後6週間が経つと、親猫は子猫の前に獲物を差し出す。そして、子猫を獲物に誘うように、「ブンブン」といううなり声を上げる。すると子猫は興奮し、獲物に飛び掛かり、殺しの噛みつきを練習する。つまり、愛猫が獲物を持ってきた場合、“子猫の代用”となっている飼い主は頭をなでてやるのではなく、子猫がするように獲物のところに行くのが正解というわけだ。
他にも、威嚇や順位づけ、交尾に子育てなど、猫の行動をさまざまな角度から分析する本書。愛猫家は必読だ。