森林浴でストレスホルモンが16%減少
“自然の中にいると気持ちがいい”ということを私たちは体験的に知っているが、これは単なる気の持ちようではない。今、世界各国で自然が体にもたらす好影響が研究され、数値的に明らかになりつつあるのだ。
フローレンス・ウィリアムズ著「NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる」(栗木さつき・森嶋マリ訳 NHK出版 1900円+税)では、健康や環境分野を専門とするジャーナリストが各国の科学者を訪ね、自然が人間にもたらす作用について徹底分析している。
第1章で語られるのは、「シンリンヨク」について。実は、この森林浴という考え方は日本で初めて提唱されたものだ。森で樹木の香気を浴びながら精神的な安らぎと爽快感を味わうという発想は、自国にはないものだと驚くアメリカ人の著者は、第一人者に話を聞くべく、千葉大学環境健康フィールド科学センターの宮崎良文教授を訪ねている。
まずは、津軽国定公園内の十二湖に基地を置き、宮崎教授や学生らとともに森林浴効果の検証がスタートする。2004年から宮崎教授らが行ってきた調査では、森の中をゆっくりと散策することで、ストレスに反応して分泌されるコルチゾールというホルモンが、都会の街なかを歩いているときと比較して16%も下がることが明らかになっている。
さらに、興奮時に活性化する交感神経の活動が4%、血圧が1・9%、心拍数も4%下がり、ストレスが緩和されることが示されているという。著者自身による実験でも、十二湖を15分散策しただけで通常よりも血圧が下がり、実験後に弘前市内に戻りタクシー乗り場に並んだときには、再び血圧が上がるなどの結果が出ている。
自然が人間の健康に好影響をもたらすことは分かるが、森で暮らすわけにはいかない都会人はどうしたらよいか。その答えを導き出しているのが、フィンランド国立自然資源研究所のチームだ。
自然が人間にもたらす生理作用は永久には続かないものの、1カ月に5時間程度、つまり週2回およそ30分を公園などの青々とした木々の下で過ごせば、ストレスから解放され脳がクリアな状態を維持できるとしている。
心身の疲れを自覚している人は、自然に触れる機会を増やしてみてはどうか。