著者のコラム一覧
飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長

環境エネルギー政策研究所所長。1959年、山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻。脱原発を訴え全国で運動を展開中。「エネルギー進化論」ほか著書多数。

「下り列車」に乗り換えて見えてくる幸福なニッポン

公開日: 更新日:

「経済成長なき幸福国家論」平田オリザ、藻谷浩介著 毎日新聞出版 1000円+税

 東芝、タカタ、神戸製鋼、日産と不祥事が続き、高品質なものづくりで世界をリードしてきたはずのニッポン株式会社の屋台骨を揺るがしている。大企業だけでなく、「堅い仕事」の代名詞であるお役所も、モリカケ問題や日報問題などで記録も記憶もないと徹底的にシラを切り通して、国民からの信頼は地に落ちた。

 彼らに共通するのは「依存」だ。組織に依存し、権威に依存し、高度成長期や果ては戦前の勇ましかった時代の「ニッポンを取り戻す」と妄想に依存して、事実やルールさえ歪める。日本がもはやアジアで唯一の先進国ではなく、人口や経済が縮小してゆく現実を受け入れられない「寂しい人たち」なのだ。

 本書は、「下り坂ニッポン」で軽やかに活躍する2人が、そうした「寂しい人たち」さえも思いやりながら交わした対談録だ。文化・演劇地域再生に取り組む「現代の宮沢賢治」こと平田オリザ氏、相方は日本中を津々浦々くまなく訪ね回ってきた「現代の宮本常一」こと藻谷浩介氏。

 その2人が「足で稼いだ実感」をもとに、魅力的な「過疎の町」を次々と紹介する。例えば、女性が昼間から1人でビールを飲めるという理由で女性漫画家が移住先に選んだ城崎温泉、小学生全員が子ども歌舞伎を授業で習う岡山県奈義町、写真甲子園で移住者を引きつける北海道東川町。

 そうした魅力的な地域社会への移住での心配ごとのひとつは、自分にあった仕事があるかだが、専業ではなく「複業」で、分業ではなく「一人多役」を担えば、どこでも楽に豊かに暮らせる。何よりも、心豊かに生きるには、自己決定力が重要だと説く。

 これまでの東京中心に向かう「上り列車」を「下り列車」に乗り換えると、その先に希望が見えてくる。「寂しい」どころか、心豊かで幸福なニッポンの姿ではないだろうか。

【連載】明日を拓くエネルギー読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    元グラドルだけじゃない!国民民主党・玉木雄一郎代表の政治生命を握る「もう一人の女」

  2. 2

    深田恭子「浮気破局」の深層…自らマリー・アントワネット生まれ変わり説も唱える“お姫様”気質

  3. 3

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”

  4. 4

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  5. 5

    東原亜希は「離婚しません」と堂々発言…佐々木希、仲間由紀恵ら“サレ妻”が不倫夫を捨てなかったワケ

  1. 6

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    “令和の米騒動”は収束も…専門家が断言「コメを安く買える時代」が終わったワケ

  4. 9

    長澤まさみ&綾瀬はるか"共演NG説"を根底から覆す三谷幸喜監督の証言 2人をつないだ「ハンバーガー」

  5. 10

    東原亜希は"再構築"アピールも…井上康生の冴えぬ顔に心配される「夫婦関係」