著者のコラム一覧
飯田哲也環境エネルギー政策研究所所長

環境エネルギー政策研究所所長。1959年、山口県生まれ。京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻。脱原発を訴え全国で運動を展開中。「エネルギー進化論」ほか著書多数。

おなじみのバナナは代替種のクローン!!

公開日: 更新日:

「世界からバナナがなくなるまえに」ロブ・ダン著 高橋洋訳 青土社 2800円+税

 昨年から今年にかけて、北海道のジャガイモが不作でポテトチップスが品薄になったことは記憶に新しい。台風による一時的な影響だったが、本書で紹介される食糧危機はそんなものではない。

 19世紀にアイルランドを襲った疫病によるジャガイモ凶作は、餓死や移民で人口を半減させた。ジャガイモは、もともと中米アンデスで多様な品種で構成されていた。そのため、さまざまな疫病や気候に対して耐性があった。ところが、15世紀のスペインの侵略者たちがわずかな品種のジャガイモを持ち帰り欧州に広がった。だからいったん疫病が広がると容易に全滅する。

 書題のバナナは一度1950年に全滅し、今日のおなじみのバナナは全て代替種のクローンだ。これも何かの拍子に全滅しかねない。かつてチョコレートの大輸出国だったブラジルのカカオは、細菌テロのため数年で壊滅した。それがいつガーナに飛び火しないとも限らない。そのほか、キャッサバ、小麦などを襲った大凶作が紹介される。

 こうした危機は、現代の構造的問題だと著者は指摘する。今日、私たち人類はわずか12種類の作物で8割のカロリーを摂取している。それぞれの作物の中でも大量生産に向く単一品種が進み、同時に特定の疫病で壊滅する恐れも高まる。遺伝子組み換え作物で対抗しようとするモンサントなどグローバル企業は、逆に事態を悪化させている。私たちの文明は、豊かさにあふれているように見えて、一寸先は大飢饉と背中合わせなのだ。

 他方、ヒトラーやISが迫るなかで自らの危険を顧みずに種を守った科学者たち、北極圏に「ノアの箱舟」を築いて地球上の可能な限りの種を未来に保全しようとする科学者など、いくつかの英雄的な取り組みには勇気づけられる。

 種の多様性やそこで成立している小さなエコシステムを失ってきたことが、私たちの文明を脆弱にしてきた。これは、多様な人たちの参加を排除しつつある今の政治や社会の「脆さ」とどこか共通している。

【連載】明日を拓くエネルギー読本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動