「ディレイ・エフェクト」宮内悠介著
2019年の東京。年明け元日から奇妙な現象が起こり始めた。それは、1944年、75年前の東京が可視化され、現実世界の進行と連動し始めたのだ。
場面は主人公の家。茶の間と重なり合ったリビングのソファに、半透明のちゃぶ台が写りこんでいる。座っているのは曽祖父。読んでいる新聞には大戦中の北支の戦闘の模様が掲載されている。台所には曽祖母、彼女は45年3月10日の東京大空襲で焼死することになっている。
こうした状況に、妻と娘は次第に病みはじめ、疎開することに。一人残された男は幻の吹雪の中、オフィスでそのときを待つ。そして3月10日、妻から手紙が届く。そこには驚くような疎開の理由が書かれていた。
芥川賞候補になった短編集。ほかに「空蝉」「阿呆神社」の2編を収録。(文藝春秋 1450円+税)