「箱庭世界」パイ インターナショナル編著
「箱庭世界」パイ インターナショナル編著
箱庭やジオラマのように限られた小さな空間に自らの世界を凝縮する--国内外のクリエーターたちのそんな作品を集めたイラスト作品集。
巻頭を飾るサイスケッチ氏の作品は「駅」というタイトルだが、描かれた建物はレールにも道路にも面していない。よく見ると、背景には雲が描かれ、建物は空中に浮いているようだ。
とはいっても近未来の「駅」のイメージとも違い、どこか懐かしさが漂う。建物には「KIOSK」の看板が掲げられ、軒下には子ども用のおもちゃなのだろうか、スコップやスイカ柄のビーチボールのようなものが吊り下がり、飲料ケースがあり、カウンターではスナックなどが売られている。お店の横には日本人にもおなじみの「ガシャポンマシン」が数台置かれ、屋根ではいくつものざるで食材が天日干しされており、のどかな時間が流れている。
建物の裏には自転車置き場まである。
作者は、「雲の上で自転車にどう乗るかはわかりませんが、自転車置き場があると楽しい雰囲気が出て場面に動きが加わります」とその意図を明かす。
ほかにも、屋根の上の天日干しや、ガシャポンはかつて香港の離島で見た風景や幼いときの体験をもとに描いていることなど、作者自らが作品について解説。
デザイナーの有里氏の作品は「キャンピングカー」。「気ままにいろいろなところを旅しながら仕事ができたらすてきだなぁ」と自ら理想とするキャンピングカーの内部を描く。
車のドアを開けてテーブルを引き出すと調理用のガス台がセットされ、一緒に旅する猫のためのエサと水の皿、そして車内で仕事をする自分の姿が描かれる。仕事の前におそらく「ひと潜り」してきたのだろう、バックドアに吊り下げられたウエットスーツがシュノーケルセットとともに風になびいている。
「埜々原」氏の「樹上都市のヌードルハウス」は、樹高300メートルを優に超える巨大樹の根っこの側面に張り付くように建てられた店舗を描く。描かれていないが、下は深い湖のようになっていて、樹上都市の下層に位置するこの場所でも水面までは50メートルほどあるという設定。
建物は階層上になっており、ヌードルハウスの下はカフェスタンド、上階は店主の住まいなのだろうか、通路やはしご、階段など自在に組み合わされ、巨大な建物がひとつの空間のようになっている。
ほかにも、ビンテージのガシャポンマシンの丸いドームの中に本屋さんがあったり、そのつまみをひねると、さまざまな形状の毬藻がでてくるという蘇蝦仔氏の「にゃんこ植物園」や、9つの島でさまざまな出来事が起きており、つながるとひとつの大きな島になるという物語性を秘めたアランツ氏の「不思議な島々」など、国内外の作家26人による約180点を収録。
出自も作風も異なる作者たちの競演を堪能する。
(パイ インターナショナル 2420円)