「一身二生」太田俊明著
伊能忠敬は九十九里の裕福な網元の三男として生まれた。家業の傍ら学問にも励み、特に星を見るのが好きだった彼は星の動きがそれぞれ少しずつ違っていることに気づき暦に興味を持つ。
長じて、好縁が舞い込む。佐原の豪農で名主でもある伊能家からの婿養子の話だ。ただし、暦学を捨てることが条件。
伊能家に入った忠敬は家業に励み、また決壊を繰り返す堤防を再構築したり、新田開発に着手するなどして家をもり立てた。そして40を過ぎたころ隠居を願い出る。江戸に出て暦学を再び学ぼうとしたのだ。縁あって幕府御用の高橋至時に師事し、蝦夷の測量を、そして日本全国の地図の作製にその後の生涯を捧げることになる。運命に従いながらも志を捨てなかった稀有な人生を歩んだ男を描いた時代小説。 (日本経済新聞出版社 1700円+税)