「族長の秋」ガブリエル・ガルシア=マルケス著 鼓直訳
「族長の秋」ガブリエル・ガルシア=マルケス著 鼓直訳
月曜日の朝、人々は大統領府に群がるハゲタカによって異変を察した。何百年にもわたる惰眠から覚醒して、恐る恐る大統領府に足を踏み入れた人々は、秘密の執務室で床にうつぶせ右腕を枕代わりに頭の下にあてがういつもの眠る姿勢で死んでいる大統領を見つける。
かつて生娘のように滑らかだった手は鳥についばまれ、その薬指には権力の象徴である指輪が残り、雄牛の腎臓ほどもある睾丸はハゲタカも手をつけずそのままだった。それでも人々は素直に彼の死を信じることができなかった。彼が執務室でただ1人、服を着たまま眠っている最中に大往生を遂げたのを見るのは実はこれで2度目だったからだ。
ノーベル賞作家が、南米の架空の国を舞台に独裁者の実相を描いた傑作。
(新潮社 1100円)