「戦前の怪談」田中貢太郎著

公開日: 更新日:

 田中貢太郎は大正から戦前昭和に活躍した作家で、なにより「日本怪談全集」「支那怪談全集」をはじめとする実話怪談の書き手・アンソロジストとして有名。本書は、著者が記した怪談の中から24話を精選したもの。

 冒頭の「虫採り」は、不忍池近くの草むらで、藍色の服に針金が引っかかって困っている少女を貧乏画家が助けてやるところから始まる。その後青白い着物を着た芸妓が画家の前に現れ、いますぐ汽車に乗って遠くへ行くようにいわれる。その通りに夜汽車に乗って東京を離れると、その日関東大震災があり、画家は命拾いをする。東京へ戻り不忍池へ行くと、白蓮の花弁をくわえた藍色の山女がこちらを見ていた。

「蟇の血」は、将来を嘱望された青年が、ある女と出会ったことで怪異の世界に引き込まれる話で、近藤ようこが漫画化したことで知られる。

 まだ自然が豊かに残っていた戦前日本の風景の中でチョウ、蛇、キツネといった異類たちが織りなす恐怖と怪異は、懐かしくも新鮮に感じられる。

(河出書房新社 1800円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    菊川怜の元夫は会社が業績悪化、株価低迷で離婚とダブルで手痛い状況に…資産は400億円もない?

  2. 2

    粗製乱造のドラマ界は要リストラ!「坂の上の雲」「カムカムエヴリバディ」再放送を見て痛感

  3. 3

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  4. 4

    綾瀬はるか"深田恭子の悲劇"の二の舞か? 高畑充希&岡田将生の電撃婚で"ジェシーとの恋"は…

  5. 5

    斎藤元彦知事ヤバい体質また露呈! SNS戦略めぐる公選法違反「釈明の墓穴」…PR会社タダ働きでも消えない買収疑惑

  1. 6

    渡辺裕之さんにふりかかった「老年性うつ」の正体…死因への影響が報じられる

  2. 7

    水卜ちゃんも神田愛花も、小室瑛莉子も…情報番組MC女子アナ次々ダウンの複雑事情

  3. 8

    《小久保、阿部は納得できるのか》DeNA三浦監督の初受賞で球界最高栄誉「正力賞」に疑問噴出

  4. 9

    菊川怜は資産400億円経営者と7年で離婚…女優が成功者の「トロフィーワイフ」を演じきれない理由 夫婦問題評論家が解説

  5. 10

    火野正平さんが別れても不倫相手に恨まれなかったワケ 口説かれた女優が筆者に語った“納得の言動”