「江戸のいちばん長い日 彰義隊始末記」安藤優一郎著
勝海舟と西郷隆盛の会見で江戸城の無血開城が実現した――は、有名である。歴史の名場面といおうか。勝の英明と西郷の度量によって、江戸は火の海になるのをまぬかれたといわれている。
ところが、慶応4(1868)年3月13、14日のふたりの会見からおよそ2カ月後の5月15日に、江戸で彰義隊の戦いが起きているのである。必ずしも「両雄の会談により和平が実現」したわけではなかった。
また、彰義隊と聞いたとき、多くの人が思い浮かべるイメージは次のようなものであろう。
新政府軍を相手に、上野の山に立てこもって徹底抗戦し、幕府に殉じて幕臣の矜持と意地を示した。過激論を掲げて集合したが、いざとなれば離反者が相次ぎ、戦闘になるや、あっけなく敗れ、幕臣の惰弱と無能を示した。
右のように、彰義隊に対する評価は正反対に分かれている。
いや、これは歴史的評価というより、時代小説に感化されたイメージといってよかろう。彰義隊は日本史の教科書にはほとんど出てこないため、時代小説の影響力は大きい。要するに、時代小説が彰義隊をどう描いたかに左右されているのだ。
では、彰義隊の戦い(戊辰戦争)が勃発した慶応4年からちょうど150年の現在(2018年)、彰義隊をどう理解し、評価すべきなのだろうか。そんな疑問をあらためて検証したのが本書である。
日々刻々と情勢が変化し、しかも、多くの人が「日和見」だったのがわかる。その結果、彰義隊が上野の山に立てこもり、敗れたといえよう。
なお、彰義隊が夜まで持ちこたえていたら情勢は変わっていたろう、という著者の示唆は興味深い。
(文藝春秋860円+税)