「武士の日本史」高橋昌明著
サムライにあこがれる外国人がテレビなどに登場すると、ちょっとくすぐったい気分になる。とはいえ、日本人として悪い気はしない。また、日本人のほとんどは家系が話題になると、「うちの先祖は武士だった」と誇らしげに述べる。実際には人口構成からいって、そんなことはあり得ないのだが。
ともあれ、サムライや武士はプラスのイメージでとらえられていることになろう。
では、そもそも武士とは何なのであろうか。多くの人がイメージしているのは、時代小説や時代劇に登場する戦国時代の武将、そして江戸時代の下級武士であろう。とくに江戸時代の武士は文武両道で倫理礼節を守った、と信じられているようだ。
本書には、その発生からたどりながら、武士の実像が描かれている。なかでも「第3章 武器と戦闘」以降が俄然、面白い。
「刀は武士の魂」「忠義を重んじる」など武士や武士道に関する通説、思い込みなどが次々とくつがえされていく。いわば証拠を提示しながらの論述は、小気味いいほどである。
そもそも戦士集団だった武士は近世、支配階級となるに及び、文官とならざるを得なかった。その一方で、「武士は死を恐れない」など“観念的”な武士道は残っていった。
明治以降、軍人=武士という詭弁が生まれ、太平洋戦争の終了まで続いた。たしかに一部の人々に誇りをいだかせたかもしれないが、著者はこの思想が「戦死の美化」に利用されたと指摘する。
いや、現在も、これからも、武士や武士道は日本人の心情をくすぐりながら、都合よく利用されるかもしれないのである。本書はそこまで見すえているといえよう。(岩波書店 880円+税)