「火影に咲く」木内昇著
慶応3年、人斬り半次郎という異名をもつ薩摩の城下士、中村半次郎は、京の四条小橋東詰に店を構える村田煙管店に出入りしていた。その店の娘、さとにひかれていたからだ。さとが「中村様は、ほんまに明るいお方やなぁ。お話ししてると楽しいわ」と言ったとき、常に緊張しているために硬くこわばっていた体がゆるりと溶けるように感じた。
いつしか男女の関係となり、さとの父も一緒になることを望んでいた。半次郎は「おいはまず、おさとを幸せにせんとならん」と考えていたが、坂本龍馬らが暗殺され、京が焼け野原になるという噂が立ったころ、半次郎はさとと写真を撮ろうと思いつく。(「光華」)
幕末の志士と女たちが生きた一瞬を描く短編集。
(集英社 1600円+税)