「標的:麻薬王 エル・チャポ」アンドルー・ホーガンほか著、棚橋志行訳
去る11月5日、麻薬王エル・チャポの裁判がニューヨークの連邦地裁で開始された。チャポはコカイン、ヘロイン、大麻、メタンフェタミンなどを米国に密売し、1兆5400億円もの収益を上げたとされる。証人保護などのため最も費用(55億円)のかかる裁判として注目されている。
著者のホーガンは元米国麻薬取締局(DEA)特別捜査官で、本書は著者らがチャポ逮捕に至るまでの経緯を詳細につづったもの。チャポはメキシコ生まれで、世界最大の麻薬組織シナロア・カルテルの首領として巨万の富を得ていた。
1993年にグアテマラで逮捕されるが、2001年に脱獄。以後、捜査当局の手から逃れ続け「アル・カポネ以来最大の社会の敵」と呼ばれた。政府高官や警察官まで取り込む組織を壊滅するのは至難の業と思われていたが、著者らは地道な捜査を重ね、ついにチャポ逮捕にこぎ着ける。ところがチャポは刑務所から再び脱獄――。
DEAとカルテルとの虚々実々の駆け引きは、まるで映画を見ているよう。知られざる麻薬捜査の裏事情や麻薬組織の実態も赤裸々に描く犯罪実話。
(ハーパーコリンズ・ジャパン 2200円+税)