著者のコラム一覧
北尾トロノンフィクション作家

1958年、福岡市生まれ。2010年にノンフィクション専門誌「季刊レポ」を創刊、15年まで編集長を務める。また移住した長野県松本市で狩猟免許を取得。猟師としても活動中。著書に「裁判長! ここは懲役4年でどうすか 」「いきどまり鉄道の旅」「猟師になりたい!」など多数。

「おいしい料理は、すべて旅から教わった」荻野恭子著

公開日: 更新日:

 料理研究家の著作といえばレシピ本とか料理エッセーが定番だが、本書は旅本。

 著者の荻野恭子さんが20代から今日までに訪れた60カ国での経験に基づく“粉物”をメインとする食文化の記録になっている。

 訪問地の大半はロシア、中央アジア、東南アジア。取り上げられるのは家庭料理。これだと思う料理を見つけると、主婦やシェフから素材や作り方を学ぶスタイルを繰り返すことで、各国の食生活事情や食文化を身に付けていく。手間を惜しまない方法が素晴らしい。その傾向は30代に入って顕著になり、料理教室の先生だった著者が料理研究家へと活動の幅を広げていくのと歩調を合わせている。

 僕は明確な目的を持った旅を“わざわざ旅行”と呼んでいる。シンプルな動機を胸に現地まで行くのは好きでなければできないことだ。著者の旅にビジネスのにおいがまったくしないのも、好きが前面に出ているからだと思う。隣接する国々が、食に関してどういう影響を与え合っているかなんて、足を運ばなければ見えてこない情報だ。

 各国を代表する家庭料理の紹介やレシピも豊富に掲載されているが、料理という一般的なものを足がかりに、相手の懐に飛び込んでいく軽やかなスタイルこそ本書の読みどころではないだろうか。日本で知り合ったトルコ人の里帰りに同行し、1カ月もホームステイしちゃってるもんなあ。好奇心と探究心が並じゃない。

 余談だが、僕は著者に料理を習ったことがある。2年前、急にピロシキを作りたくなり、どうしてもうまくできないので、教えて欲しいとずうずうしくお願いしたのである。言われるままに手を動かすと、家ではできなかったことが簡単にできてしまうので驚いたが、持参した見栄えの悪いピロシキを見た著者にかけられた言葉が印象に残っている。

「作ってみたのね。それでいいのよ。すべては失敗から始まります」(KADOKAWA 1450円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  2. 2

    フジテレビ「第三者委員会報告」に中居正広氏は戦々恐々か…相手女性との“同意の有無”は?

  3. 3

    大阪万博開幕まで2週間、パビリオン未完成で“見切り発車”へ…現場作業員が「絶対間に合わない」と断言

  4. 4

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  5. 5

    歌手・中孝介が銭湯で「やった」こと…不同意性行容疑で現行犯逮捕

  1. 6

    大友康平「HOUND DOG」45周年ライブで観客からヤジ! 同い年の仲良しサザン桑田佳祐と比較されがちなワケ

  2. 7

    冬ドラマを彩った女優たち…広瀬すず「別格の美しさ」、吉岡里帆「ほほ笑みの女優」、小芝風花「ジャポニズム女優」

  3. 8

    佐々木朗希の足を引っ張りかねない捕手問題…正妻スミスにはメジャー「ワーストクラス」の数字ずらり

  4. 9

    やなせたかし氏が「アンパンマン」で残した“遺産400億円”の行方

  5. 10

    別居から4年…宮沢りえが離婚発表「新たな気持ちで前進」