「アンソロジーカレーライス!!大盛り」杉田淳子編
このタイトルに心引かれて手に取る人は、すでにカレーを食べたい気持ちに火が付きかけていると思われる。その気持ちは目次を見ればさらに高まるだろう。44編のカレーエッセーが、ど~んとまとめられているからだ。
メンバーも豪華。池波正太郎に始まり、向田邦子、伊丹十三、宇野千代、吉行淳之介、寺山修司、最後の色川武大まで、一筋縄ではいかない書き手が連なっている。それだけでもぜいたくな本だが、発表された媒体や年代がバラバラなものを調べ、発掘し、一堂に会した点に妙がある。名うての作家たちがカレーというありふれたものを、どのように“料理”してきたか。アンソロジーならではの楽しさといえると思う。
作り方や味について書かれた王道的なものもいいのだが、僕が好きなのはカレー的人生とラーメン的人生を比較考察する寺山修司のエッセーや、スーパーで食材を買うとき、いかに自意識過剰になるかを告白する町田康、カレーライスの悲哀を語る赤瀬川原平らの文章だ。なにしろ相手はカレーなのだから、読者だって1つや2つ、語りたいネタを持っている。
どんなことを書くのか、ぬるい内容なら読まないぞ、という対抗心みたいなものがあるだろう。そういう読者の意気込みをわかった上で、おもしろい変化球を投げるのだ。吉本隆明がレトルトカレーを山ほど買い込み、片っ端から味見して真剣に比較検討していたりするもんなあ。ソバだとウンチクに逃げることもできるけど、カレーはそうはいかないところに工夫のしがいがあり、プロの凄みを何度も感じた。
ひとつとして似たようなアプローチがないのは、そのように配置したアンソロジストの腕である。僕が笑ったのは角田光代の訴えだ。妻や彼女が作る料理で一番好きなのはカレーと答えてはいけないというのである。全然ホメてることにならないらしい。その理由は――本書を手にとって確かめて欲しい。(筑摩書房 800円+税)