「居酒屋チェーン戦国史」中村芳平著
市場規模1兆円。外食産業全体から見れば決して大きくない居酒屋業界では、常に激烈な闘いが繰り広げられてきた。本書は1950年代に創業し、70年代にFC100店舗を達成した「鮒忠」を居酒屋チェーンの草分け、1000店舗を実現して企業化に成功した「養老乃瀧」を先駆者と名付け、以後の歴史をつづったもの。なぜ成功したのか。創業者はどんな人物か。どこでつまずいてしまったのか。そこを打ち負かした新興勢力はどこだったのか。新書らしい無駄のない展開で、成功と衰退を繰り返す覇権争いのエッセンスをまとめ上げている。
居酒屋はうまくいけばおもしろいほど利益が出る。だから、次々に野望を抱く経営者が現れるが、飽きられたり時代の流れを読み違えると坂を転がるように客離れが起き、生き残りは至難の業だ。80年代にご三家と呼ばれた「養老乃瀧」「つぼ八」「村さ来」。バブル崩壊後の90年代、ご三家の経営が悪化したスキに台頭し、多ブランド展開や積極的なM&Aで世代交代を成し遂げた新ご三家の「モンテローザ」(「白木屋」「魚民」「笑笑」など)、「ワタミ」(「和民」「坐・和民」など)、「コロワイド」(「甘太郎」「三間堂」など)の天下も長くは続かず、2000年代に入ると激安均一価格戦争が勃発。「鳥貴族」の人気に火がつき、ライバルたちをごぼう抜きにしてトップランナーに躍進。それを追って「塚田農場」「磯丸水産」「串カツ田中」「晩杯屋」などの新興勢力が追い上げる構図に変化している。
まるで戦国武将の天下取り合戦のようだが、外食ジャーナリストである著者の筆致は一貫してクール。長年の業界取材で得た経営者の言葉をちりばめ、データを駆使し、偏りのない読み物に仕上げている。そこがベテランの味だなあ。学生時代から今日まで世話になってきた店が続々登場し、「そうだったのか」と何度もひとりごちてしまった。