著者のコラム一覧
北尾トロノンフィクション作家

1958年、福岡市生まれ。2010年にノンフィクション専門誌「季刊レポ」を創刊、15年まで編集長を務める。また移住した長野県松本市で狩猟免許を取得。猟師としても活動中。著書に「裁判長! ここは懲役4年でどうすか 」「いきどまり鉄道の旅」「猟師になりたい!」など多数。

「サカナとヤクザ」鈴木智彦著 

公開日: 更新日:

 5年の歳月をかけ、北海道から九州、台湾、香港まで、密漁の実態を追いかけたノンフィクションだ。毎日の食卓に上る魚がこれほどまで犯罪と身近なものであることがショックだし、関係者なら知らぬ者のいない実態なのに、表沙汰になることが少ない点にも驚かされた。

 6章あるうち、白眉は第4章の千葉編と第3&5章の北海道編だろう。前者は銚子、後者は根室を舞台に繰り広げられてきた密漁の歴史には、漁業の闇が凝縮されている。

 特に北方領土問題が絡む北海道編では、ソ連時代のロシアが漁をさせる代わりに漁師をスパイとして活用していたことも明かされ、カニ漁からあぶりだした戦後史としても興味深い。

 また、第1章の岩手・宮城編では東日本大震災以降のアワビ密漁団の動きがスリリングに描かれ、第6章ではウナギの国際密輸を追跡。

 これらが現在進行形の裏ビジネスであることを思い知らせてくれる。

 しかし、僕は一見地味に思える第2章こそが著者の真骨頂だと思う。全国から魚が集まる築地市場(移転前)で密漁された魚はどのように扱われているかを確かめるべく、4カ月の潜入取材を敢行しているのだ。結果、何か凄い発見をしたわけではない。大事件も起こらない。でも、確かに密漁された魚はここで正規の魚と同じように売られ、飲食店や家庭の食卓へと運ばれている。その実感を掴むため、現場の空気を肌で知ることが、著者にとっては欠かせない通り道なのだ。

 ジャーナリスティックな面を持ちながらも、本書がエンタメとしても読めるのは、カラダを張らないと書けないリアルな文章へのこだわりと、密漁を暴くことよりシステムの解明に執念を燃やす好奇心にあると僕は思う。

 同じような取材をしても、新聞記者には醸し出せない雰囲気が本書には満ちている。それこそが最大の魅力だ。

(小学館1600円+税)

サカナとヤクザ

【連載】北尾トロの食いしん本

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  2. 2

    小泉進次郎氏「コメ大臣」就任で露呈…妻・滝川クリステルの致命的な“同性ウケ”の悪さ

  3. 3

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  4. 4

    永野芽郁は映画「かくかくしかじか」に続きNHK大河「豊臣兄弟!」に強行出演へ

  5. 5

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  1. 6

    元横綱白鵬「相撲協会退職報道」で露呈したスカスカの人望…現状は《同じ一門からもかばう声なし》

  2. 7

    関西の無名大学が快進撃! 10年で「定員390人→1400人超」と規模拡大のワケ

  3. 8

    相撲は横綱だけにあらず…次期大関はアラサー三役陣「霧・栄・若」か、若手有望株「青・桜」か?

  4. 9

    「進次郎構文」コメ担当大臣就任で早くも炸裂…農水省職員「君は改革派? 保守派?」と聞かれ困惑

  5. 10

    “虫の王国”夢洲の生態系を大阪万博が破壊した…蚊に似たユスリカ大量発生の理由