「うどん手帖 死ぬまでに一度は食べたい!!全国の名店50+α」井上こん著
北海道から沖縄まで、うどんの名店50店の情報とエッセーで構成され、写真も多数。
著者は年間うどん摂取量約500食。常にうどんのことを考え、食べ歩き、その記録を専用ブログにアップし、オリジナル乾麺「ふくうどん」の開発まで行う。これはもう、うどんライターと呼んで差し支えないだろう。日本で唯一か、うどんライター。
昭和の食文化を記録すべく、“町中華探検隊”を結成している僕だが、麺類で何が好きかときかれたら迷わずうどんと答える。博多生まれなので、だしを吸うタイプの軟らかい麺で育った。
讃岐うどんが全国区になって、コシがあるのがいいうどんと思う人が増えることを危惧しているのだが、本書を読んで安心した。井上こんさんは差別しない。やわやわもシコシコも全部うどんなのである! いや、そうは書いていないが、地域ごとの個性があるからこそ、全国各地を食べ歩いて飽きることがないのだろう。文章の端々にうどん職人へのリスペクトも感じられ、衰え知らずの好奇心を原動力に食べまくっているのがわかる。
残念なのは、関東と福岡県が3分の2を占め、秋田県の稲庭うどん、長崎県の五島うどん、富山県の氷見うどんといったメジャーどころの追求が甘い点だ。そこは東京の店でカバーしているのかと思ったらそうでもなく、関東の雄である武蔵野うどんを厚くフォローしている。埼玉県は香川県に続く全国2位の小麦生産量を誇る、関東のうどん県なのだ。
抜け落ちているメジャーうどんの共通項は乾麺であること。僕は乾麺を、三輪そうめんをルーツとし、江戸時代に北前船で技術が伝播され広まったのではないかと考えている。そのあたりも、いつか書いて欲しい。
僕が食べたくなったのは、博多で人気となり東京進出を果たした「大地のうどん」(高田馬場)。淡々とした筆致が特徴の著者が手放しで褒めているのだ。これは絶対うまいだろうと思い、こんさんの舌と経験値に早くも信頼を寄せている自分に気がついた。
(スタンダーズ・プレス1000円+税)