「終わった人」 内館牧子著/講談社文庫/900円+税

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 舘ひろし主演で映画化もされた同作の初登場は2015年とかなり前だが、文庫版が2018年に登場。このたび「老害」に関するコラムを東洋経済オンラインに書いた。掲載後、編集者から「今更ですが、これどうぞ。中川さんが書いたことと内館さんが書いたことは重なっています」と言われて読んだところ、殊のほか面白かった。

 ある程度の年齢に到達した男性は来る定年退職後に備えて読んでおいた方がいいのでは、と思える内容なのだ。

 主人公の壮介は東大法学部を卒業してから順調にメガバンクで出世レースのトップを走っていたが、役員レースから脱落をした後は子会社への出向↓転籍となり、63歳で定年を迎える。そこから何をやっていいのか分からない悶々とした日々が始まり、一方妻はますます活発に活動を開始する。

 本書の中核となるのは壮介のような「終わった人」が果たして「若い女からモテるか」という話と、「現役バリバリで若者と一緒に働けるか?」という、2点についてその結果を見せつける点にある。

 結局壮介は現役時代にメガバンクの役員ないしは社長になれなかったということから、「俺はまだ不完全燃焼だ」という思いがあるのだろう。だからこそ、突然オファーされたベンチャー企業社長の椅子に座り、9000万円の資産を失うなど、痛い目に遭う。このくだり、よく分かるのである。サラリーマンたるもの、一度はトップに立ちたいと思っている。だが、トップに立てる人間は実に少ない。その器でもない者、しかも年老いた者がその立場になるとどうなるか……。

 本書で重要な役割を果たすのが娘の道子である。容赦なく痛いところを突いてくる。

〈私、ママの苛立ちがわかるんだ。九千万のことはもちろん許せないけど、ママの顔色うかがってヘイコラしてるパパがイヤなんだよ〉

 また、この本に関して面白いのが、アマゾンの評価である。「☆5つ」の場合は、「身につまされる」といった言葉とともに簡潔に良い点が書かれてあるのだが、最低評価である「☆1つ」は真逆だ。男のことを分かってない女が浅い知識を基に書いた、単なるファンタジーである、みたいなことを書くとともに、とにかく文章が長い! それだけ同書に腹を立てているのだろうが、読んでイヤな気持ちになっただろうに、そこまで長文を書くというところが本書が良作であることを証明しているのかもしれない。

 ★★★(選者・中川淳一郎)

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