「平成はなぜ失敗したのか」野口悠紀雄著/幻冬舎
30年にわたった平成が終わるのをきっかけに、経済面から平成を振り返る書籍が多数登場している。それらのなかで、平成という時代に日本経済が大転落したという認識は、ほぼ共通している。日本経済の対世界GDPシェアが3分の1に下がってしまったのだから、当然のことだ。
しかし、転落の原因に関しては、意見が真っ二つに分かれている。違いは、構造改革の位置づけだ。一つの見方は、不良債権処理を中心とする構造改革自身が転落の原因となったという見方だ。不良債権処理によって、日本の企業資産がハゲタカ外資に叩き売られたことが転落の原因だというのだ。もう一つの見方は、構造改革が中途半端だったことが転落の原因だとするものだ。
そして、興味深いのは、前者の主張をする論者が財政・金融の緩和を主張し、後者は財政・金融の緊縮を主張することだ。
本書は、後者の主張を展開する代表選手だ。著者は、金融緩和による円安誘導で日本の製造業を守ることを否定する。また、高齢化に伴う社会保障需要に対応するため、消費税増税を提言する。
そうしたなかで、どうやって経済を守るのかというと、モノづくりは、海外に任せてしまえばよいという。そして、日本の製造業は、企画や研究開発に特化すべきだというのだ。アップルコンピュータがやった手法だ。そして、日本は金融で飯を食えばよいという。日本は、莫大な対外資産を持っている。しかし、その多くを外国国債で運用しているから利回りが低い。その利回りを高めることができれば、日本は働かずに豊かになれるとしている。
つまり、著者の日本経済への処方箋は、アメリカになることだ。正直言うと、そんなことが可能なのか、望ましいのかと思うのだが、著者のきちんとした論理構成と歯切れのよい物言いが強い説得力を持つことは、間違いのない事実だ。
ただ、できれば本書と同時に反緊縮派の書籍もセットで読んで、どちらの主張が正しいのか、読者自身が判断してほしい。新元号を迎える日本の経済社会のグランドデザインを描くことは、我々や我々の子供たちの未来のために、とても重要なことだからだ。 ★★(選者・森永卓郎)