アメリカの終わらない戦争
「シークレット・ウォーズ(上下)」スティーブ・コール著、笠井亮平訳
9・11同時多発テロから既に20年近く。当時軍事的にも経済的にも世界最高だったアメリカは、終わらない戦争を抱えたまま、没落し始めている。
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いつの間にかベトナム戦争を抜いて「アメリカの歴史上最長」になったのがアフガン戦争だ。9・11同時多発テロへの「報復」として国際的にも認められて始まった戦争だが、既に20年近くが経とうとしているのに、まだ終わる兆しが見えない。
本書はアフガン報道でピュリツァー賞を受賞したジャーナリストによる「アメリカ、アフガニスタン、パキスタン三つ巴の諜報戦争」の大作ルポ。評判となった前著「アフガン諜報戦争」(白水社)も上下巻の大冊だったが、こちらも破格の重量級。しかし、1970年代のソ連侵攻から9・11前夜までをたどった前著が巧みな構成と豊富な情報量で全く読者を飽きさせなかったのと同様、本書も9・11後の報復に始まり、アフガン空爆、ビンラディン殺害、さらに無人機攻撃の激化、タリバンとアルカイダの復活、駐留米軍の大幅削減と続く2014年までの動きを詳細に描く。
これだけ詳しいのに読者を混乱させない。CIAとパキスタンの諜報機関のすさまじい駆け引きが白眉。
(白水社 各3800円+税)
「アメリカはなぜ戦争に負け続けたのか」ハーラン・ウルマン著、中本義彦監修、田口未和訳
米国防分野の大物理論家として知られる著者。海軍大学を卒業後、一貫して国防理論の研究と政策畑を歩み、レーガン、ブッシュ父、クリントン、ブッシュ子、オバマ政権までさまざまな立場で助言に関わった。2003年、ブッシュ政権下で実行されたイラク戦争では「衝撃と畏怖」作戦の立案者でもあった。その人物が「なぜアメリカは負けるのか」と正面きって問うたのが本書。
世界最強の軍隊があっても最高司令官である大統領に正確な知識や見通しがなければ機能しない、というのが結論。この観点から合格点がつけられるのは、上記5人のうちではブッシュ父大統領ただ1人。彼だけは本物の軍歴を持ち、CIA長官の経歴からもインテリジェンスの重要性をわきまえていたという。
(中央公論新社 3200円+税)
「エア・パワー 空と宇宙の戦略原論」石津朋之、山下愛仁編著
「宇宙軍」の創設を発表したトランプ政権。しかしこれはトランプの思いつきでなく、前々からの予定。対テロ戦争の非正規戦で空軍力の重要性は低下したが、中国の台頭は成層圏を越えても新たな脅威となることが予想されたからだ。
本書は防衛研究所と空自幹部学校の専門家らによる専門書。米国だけでなく日本の状況まで踏み込んで議論している。「今日に至るまで継続しているとも考えられる総力戦時代」に、戦争を「軍人と政治家だけに任せておくにはあまりにも重大な国民の事業」「文民を中心とした『日本流の戦争方法』の構築が強く求められる」という。
(日本経済新聞出版社 3600円+税)