「夢の正体」アリス・ロブ著 川添節子訳

公開日: 更新日:

 レオナルド・ディカプリオ主演の映画「インセプション」は、他人の夢の中に侵入して記憶を盗む企業スパイたちを描いたものだ。他人の夢をコントロールするのはまだSFの次元だが、自分の夢ならコントロールできるという。そのためには、眠りながら自分が夢を見ていることを自覚している状態が必要で、そのような夢を「明晰夢」という。

 明晰夢を定期的に見る人は10~20%だが、少し訓練すれば夢の内容をコントロールできるという。ペルーでの遺跡発掘中に明晰夢を体験した著者は、以降夢の科学の世界に引かれていく。

 本書は、19世紀に始まる夢の科学的研究の足跡をたどりながら最新の夢と睡眠の研究動向を紹介したもの。たとえば睡眠不足が肉体的にも精神的にも多くの問題を引き起こすことは指摘されるところだが、著者は、睡眠不足が引き起こす本当の犯人は夢の欠如かもしれないという。夢の中というリスクの低い環境で、ストレスを感じる出来事のリハーサルをしたり、悲しみやトラウマに向き合って対処する。実際、試験前に試験の夢をたくさん見た学生のほうがそうでない人よりも成績が良く、うつ病の人の症状のひとつに夢を思い出せなくなることがある。

 一方で完全な悪夢となるとリハーサルの域を越えて心身に悪影響を及ぼす。これを克服するのに有効なのが明晰夢だ。ある男性は20年間、見知らぬ男が窓の外から「殺してやる」と脅し、やがて家の中に侵入して彼を殴るという夢を見続けてきた。彼は明晰夢を見る訓練をして、夢に男が現れた瞬間に勇気をふるって男と戦い、以来二度と悪夢を見ることはなくなった。

 夢といえばフロイトの「夢判断」が有名だが、一時期心理学者たちはフロイト流の夢解釈を非科学的として遠ざけていた。ところが、近年は新たなかたちで夢を病気の診断に役立てる動きも出てきているという。また自分の見た夢をみんなで分析するグループセラピーの模様なども紹介される。未解明のことが多い夢研究だが、その最前線はとても刺激的だ。 <狸>

(早川書房 2300円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  3. 3

    PL学園で僕が直面した壮絶すぎる「鉄の掟」…部屋では常に正座で笑顔も禁止、身も心も休まらず

  4. 4

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  5. 5

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  1. 6

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

  2. 7

    伸び悩む巨人若手の尻に火をつける“劇薬”の効能…秋広優人は「停滞」、浅野翔吾は「元気なし」

  3. 8

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  4. 9

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  5. 10

    下半身醜聞の川﨑春花に新展開! 突然の復帰発表に《メジャー予選会出場への打算》と痛烈パンチ