「国会をみよう」上西充子著
1960年5月19日、時の岸内閣が日米新安保条約を強行採決。これをきっかけに安保反対闘争が一気に拡大し、連日、国会に抗議デモが押し寄せた。6月4日、安保反対のデモの中に「誰デモ入れる“声なき声”の会 皆さんおはいり下さい」という横断幕とプラカードを掲げた2人が歩いていた。思想の科学会員の小林トミとその友人だ。最初は2人だけだったが、これを見ていた青年、学生、主婦、商店主などの一般市民が後ろについて歩き、徐々に数が増え、最終的には300人以上の隊列になった。誰もが参加できるデモというユニークな市民運動「声なき声の会」の誕生である。
それから60年ほど後の2018年6月15日、東京・新橋駅前のSL広場で、働き方改革をめぐる国会審議の映像を上映しながら野党の質問に対して与党側が論点をずらして時間を稼ぎ、問題をうやむやにするやりとりを著者が解説する。その横には手書きの説明ボードも掲げられている。「国会パブリックビューイング」の立ち上げである。
つい最近の検事長定年延長問題における森法相の発言に至るまで、安倍政権の国会の軽視ぶりは目に余るものがある。しかし、国会審議での質疑が報じられることはあまりない。あったとしても総理大臣や担当大臣の答弁のみ短く編集され、野党議員の質疑はアナウンサーによる要約で済まされてしまう。これでは首相や大臣の不誠実な対応や欺瞞ぶりが見えにくく、野党議員の追及ぶりも隠されてしまう。
であれば、街頭上映とライブ解説を組み合わせることで問題のあり方を明らかにすることができるのではないか。そこで実現したのがSL広場での国会パブリックビューイングだ。
このパブリックビューイングは、その後1年間で35回の街頭上映や2本の番組制作、ライブ配信などを行った。本書は、その活動記録である。国会を自分たち国民の手に取り戻すというこの手作りの運動は、今やかき消されそうとされている「声なき声」を上げることの大切さを教えてくれる。 <狸>
(集英社クリエイティブ 1600円+税)