「東京もっこり散歩」いからしひろき・文 芳澤ルミ子・写真
本書のテーマである「もっこり」とは、丘と呼ぶには小さいが、盛り土と呼ぶには大きい土地のこと。地価が高い上に、慢性的なスペース不足の東京では、土地という土地が隙あらば「平ら」にならされてきた。
そんな逆境の中でも、ならされることなく、人々に愛され、癒やし、そして敬われてきた、東京の「もっこり」を巡るビジュアルガイド。
著者が見つけたもっこりは、大きく「古墳系」「築山系」「富士塚系」に分かれる。
古墳は言わずと知れた大昔の偉い人のお墓。意外にも東京の街中にも結構、残っているのである。かつては古墳の宝庫と呼ばれるほど上野にも多数残っていたが、今あるのは正岡子規記念球場脇の「摺鉢山」ただひとつ。
5世紀後半に築造された、高さ5メートルほどの前方後円墳だが、誰もが自由に登ることができる。削られた墳頂は大きな広場になっていて、そこに立つと、わずか数メートル標高が上がっただけなのに別世界のような静けさだという。
ほかにも、港区芝公園内にある都内最大級の前方後円墳「芝丸山古墳」や、住宅街に唐突にもっこりが出現したような府中市の「高倉塚古墳」など、古墳だけで12もっこり。
さらに、江戸時代に東海道最大の難所を模して作られた高さ44・6メートルの山手線内最高峰という新宿の戸山公園の「箱根山」などの「お山系」、そして都内最古の「鳩森八幡神社富士塚」や本物の富士山の麓から運び込んだ溶岩が使われている江戸川区東葛西の「香取神社長島富士塚」などの「富士塚系」とジャンルごとに29のもっこりを紹介。
あなたの近くにも忘れられたようなもっこりがあるはず。天気のいい秋の休日に、もっこりを探す散歩もいいもんだ。
(自由国民社 1400円+税)